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宮城県、牡鹿半島を間近に臨む石巻湾に浮かぶ田代島。
江戸時代後期より漁業が盛んで、
大漁の守り神として猫を大事にする風習が今も伝わる。
仁斗田と呼ばれる集落には、誰が飼っているわけでもない猫たちが、
路地のそこここで思い思いの時を過ごしている。
長く大切に扱われてきたことから猫も人なつこく振る舞うため、
この島では、猫の生態を詳しく見ることができる。
もともと夜行性の動物である猫は、夜目は利くが、視力はそれほど高くなく、遠くで止まっているものが何か、瞬時に見分けるのは苦手である。
何かを見つけた猫が、じっとその方向を見つめるのは、その動きを確かめるためなのだ。
猫は視力よりも聴覚が発達しており、
人間には聞こえない十万キロヘルツ程度の高周波でも、難なく聞き分けることができる。
高周波や超音波の聞き分けといえばイルカやコウモリを思いつくが、
猫は左右の耳を独立して動かすことができるため、
音の出所を立体的な空間の中で特定する能力は、他の動物よりも際立っているとも言われる。
優れた動体視力や聴覚の他、嗅覚や味覚はもちろん、
猫は、磁力や電磁波も感知できると言われている。
感覚器官の発達した猫は、正に、センサの塊のような生き物なのだ。
優れたセンサの力で、物音や気配の変化に敏感に反応する猫だが、
その表情を豊かに感じるのは、その旺盛な好奇心の為であろう。
天候、地震といった自然現象も含めて、今何が起こったのか、
何が動いたのかを見定めようとする猫の仕草は、
まるで未知なるものを分析する科学者のようでもある。
縄張りを持ち、単独行動を取る猫だが、仲の良い猫同士が、同じ縄張りの中で暮らすこともある。
こういった猫が道で出会うと、頬をすり寄せて臭い付けを交わし、
肛門近くの臭腺を嗅ぎ合う。
これは一種のマーキングであるが、
頻繁に出会う時は短く高い声で鳴き交わす「あいさつ」で済ませることも多い。
その声は高い周波数なので、残念ながら人間に聞こえることはほとんど無い。
夜、猫たちが集まる。いわゆる、夜会である。
互いの縄張りを確認し、無駄な争いを避けるための行為と考えられているが、
目を合わせることもなく、ただじっと座っているだけの光景は、とても不思議な雰囲気を漂わせる。
身近な動物だが、人間には判らない領域の光や音、
更には磁力センサのような感覚器も発達しているため、猫の行動には謎も多い。
だが、その姿をつぶさに見るにつけ、猫は自然に興味を有し、
何らかのコミュニケーションで互いの生息場所を融通し合う、賢い動物であるように映る。
人間には、これほどまでに自然を計るセンサは無い。
しかし人類には、分析力という種を超えた力がある。
その分析力で自然を計り、多様で美しい地球の姿を守ること、それが人類に与えられた使命といえるだろう。