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皆さんこんにちは
この中でメガネやコンタクトレンズを
使っている人はいますか?
おっ、半分くらいですね
めがねがないと不便ですよね
めがねは13世紀にイタリアで発明されて
16世紀ぐらいに日本に渡ってきたと言われています
でも、それが普及するのは明治以降です
それ以前の世界を想像してみてください
きっと眼の悪い人は不便だったことでしょう
本を読んだり、買い物をしたりするのも
苦労したかもしれません
まあ、その頃は街灯もなかったし
道路もそんなに整備されてなかったでしょうから
眼の悪い人が夜道を歩くのは
すごく危険だったと思います
僕はよく考えごとをしながら道を歩くんですが
昼間でもつまづくことがありますからね
今日はちょっと緊張しているので、
転ばないように気をつけたいと思います
でも、めがねが安く大量生産されるようになり
それが広く普及することによって
眼の悪い人でも普通の人と同じように
大きな危険とか不便さを感じることなく
普通に生活ができるようになりました
それと同じようなことが、色の世界にもあるのです
ちょっとこの図を見てください
右の四角と左の四角
同じような色に見えますよね
でもこれはちょっと加工してあるんです
実はこれは、赤と緑が同じように見えてしまう
そんな人の色の見え方を再現した図なのです
本当はこんな色をしています
このように、たとえば赤と緑
ピンクと水色、赤紫と青紫
このような色が区別することができない
そんな色の見え方のことを「色弱」といいます
聞いたことありますか?
お医者さんや科学者の言葉では「色覚異常」といいます
色弱の人は実はけっこうたくさんいるんです
程度の弱い人も強い人も含めると
日本人男性の約20人に1人います
欧米人の男性だと12人に1人です
女性はすごく少なくて
300人から500人に1人といわれています
日本や欧米だけではありません
実は色弱の人は世界中にいるのです
これあの、オーサグラフじゃなくてすみません
グリーンランドがでっかいですよね (笑)
眼の悪い人が、普段の生活でちょっと不便な思いを
することがあると思うんですけれども
色弱の人も、同じような思いをすることがあります
たとえば、エレベータの前でボタンを押せずに
悩んでいる人を見たことありませんか?
一般の色覚の人、普通の人がこれを見ると
8が光ってることがわかると思うんですが
実は色弱の人にはどれが押されているか
よーく見ないとわからないんですね
そういう人もいます
それに、この木には赤い実がなっていますが
色弱の人には、赤い実が
葉っぱと同じ色に見えて、よく見えません
だから、きっとこの木の下を歩いていても
実があるっていうことに気がつかないかもしれません
これはトイレの案内板ですが
色弱の人が見ると
男性用と女性用の色が逆に見えますね
慌てているときには間違ってしまうかもしれません
実際にそういうことがよくあるらしいです
まあ私も、こないだ空港で
間違って女性トイレに入りそうになって
すごい目でにらまれたことがありますけどね
まあ、私は色弱じゃないんですけれども
これはミニトマトの枝ですけれども
どの実が熟しているか
これも、よーく見ないとわからないことがあるんです
そこで私は、こういう色弱の人のために
色が見やすくなる、見分けやすくなる
そんな技術を開発しました
近視や乱視の人にとっての
めがねと同じような存在になってほしくて
「色のめがね」と名付けました
遺伝子の働きのために見えにくくなってしまう色
そんな色を計算して、それを拡張現実という技術で
見えやすくする、そういう仕組みです
今はまだメガネのように
身に付けて使うことはできませんが
こういうスマートフォン、こういうので動くので
どこにでも持ち歩くことができます
実際にどのように動くかを見てみましょう
この写真には、麦畑に赤い花
たぶんこれはヒナゲシの花だと思いますけれども
それが咲いています
でも、ある種の色弱の人がこれを見ると
こんな感じで、花の存在がよくわからないですよね
これを色のめがねで見てみましょう
こんな感じで花がよく見えるようになります
実際の使い方もけっこう簡単なんです
この本には、一般の色覚の人には読めるんだけれども
色弱の人にはよく読めないような色の組み合わせで
数字が描かれています
色のめがねでこれを見てみましょう
下の2つの円に注目してください
色弱の人が見ると、このように字が読めないですが
「色のめがね」を操作すると
こんな感じで読めるようになります
簡単でしょう?
人間は、生まれ持った肉体にしばられています
背の高い人や低い人、運動神経のいい人悪い人
それに、生まれつき手足が不自由な人や
近視の人や色弱の人、いろんな人がいます
でも、そんな不便さを補う、そんな技術も
最近発達してきました
色のめがねは、そんな技術です
誰か、僕がこういうのを作ったのと同じように
僕がもうちょっとハンサムに見えるめがねとか作ってくれると
僕、10個ぐらい買いますけど
でも、自分で買ってもしょうがないか (笑)
最初、この「色のめがね」という技術を作ったとき
私は、自分が考えたこのやり方で
本当に色が見えやすくなるかどうか
実はあまり自信はありませんでした
でも、このアプリが公開されてまもなくから
世界各国からいろんなユーザーさんの声が
集まってきました
私はそれを全部読んでいます
ちょっといくつか紹介します
「生まれて初めて紅葉が見えました」
こういうユーザーさんがいました
この人は山に行ったそうです
今まで、紅葉っていうものがどういうものなのか わからなかったんだけど
紅葉が赤いのがよくわかった
そう言ってました
「色を間違わずに服を買うことができました」
こんなユーザーさんもいました
このユーザーさんは、茶色い服を買いに行って
間違って緑の服を買ってきてしまったことが
何回かあったそうです
いつもは友達に付き合ってもらうんだけど
ひとりでもちゃんと買えたよ
と、そう言ってました
「バスや電車に乗るときに、迷わないですむようになりました」
路線図は色分けされていることが多いので
すごく読むのに時間がかかるそうです
でもそれが、すごく簡単になったよ、楽になったよ
って言ってました
「黒い模様だと思っていたのが
実は赤さびだった、そんなことに気が付いてびっくりしました」
そんなユーザーさんもいました
そして、「私に色をありがとう」と
そういうメッセージを送ってくれたユーザーさんもいました
さすがにこれを読んだとき
私は感激して涙が出ました
「ああ、私が作った技術は、 本当に人の役に立ったんだな」と
そう思うと本当にうれしかったです
今でも、ありがとうっていうメッセージがたくさん来ます
それを見るたびにすごくうれしいです
「色のめがね」と同時に私は
「色のシミュレータ」という技術も作りました
これは、色弱の人がどのように色が見えているか
それを計算して、そのとおりに表示する
そんなアプリです
一般の色覚の人は、普通の人はですね
ぜひこれを使って、自分の描いたものとか
そのへんのポスターとか、街の看板とか
見てみてください
誰にでも見えやすいような色が使われているかどうか
すぐに確認することができます
2つのアプリのユーザーは、どんどん増えました
ユーザーの声も、どんどん集まってきました
さっき言ったように、私はそれを全部読んでいます
そのうちに、私はそれらの声に
ある共通点があることに気がつきました
ちょっとご紹介します
「僕は色弱です
色のことでは友達に笑われたりとか
嫌な思いをたくさんしてきたので
その話は他の人とはしないようにしていました
説明してもわかってもらえなかったし
でも、今は自分がどのように見えているか
友達に教えることができるし、友達もそれを見て
ああそうだったのか、とわかってくれるようになりました
とてもうれしいです」
あるお母さんからはこういうメッセージをもらいました
「私の子供は色弱です
それがわかったとき
色弱に生んでしまって申し訳なかったな、と思いました
子どもが変な色で絵を描いたときがあって
それを見たときは動揺して気が変になりそうでした
でも今は、あの子がどのように見えているのか
少しわかってあげることができるようになったし
どうしてあのとき、あの色で絵を描いたのか
それも理解できるようになりました
とてもうれしいです
少しだけ安心しました」
それらは、「自分が見えたからうれしい」ではなくて
自分の見え方をわかってもらったからうれしい
あの人の見え方をわかってあげられたからうれしい
そんな声でした
そして、こういうことを教えてもらって
私自身もとてもうれしかったです
同時に、なぜ私が苦労してこの技術を作って
無料でみんなに配布しているのか
それを見ず知らずの人、たくさんの人に
わかってもらったような、そんな気がしました
人間は色を脳で見ています
頭の中は覗くことができないので
他人がどんな色を見ているかわかりません
色弱のことがよくわからなかった昔には
色弱に対する誤解や偏見みたいなものが
たくさんあったと聞いています
でも、今こうやってわかってしまえば
ここが違うんだから、ここだけ気をつければいいんだな
そう考えることができるようになってきます
もっとわかってくると
色弱の人は実は
青の細かい違いを見わける力があるとか
森で昆虫を見つけたり
水中で魚を見つけたりするのが
得意な人が多いらしいぞ、とか
一般の色覚の人よりも優れている部分
そういう部分もわかるようになってきます
人間は、目に見えないものとかわからないもの
そういうものを怖がります
お化けが怖いのも放射性物質が怖いのも、
それが目に見えないし
自分に悪さをするのかしないのか
はっきりとわからないからです
このお化けは怖くないですよね (笑)
お母さんが心配し過ぎたのも、友達が笑ったのも
そういうことが関係していたのかもしれません
国と国どうしが争ったりするのも
きっと相手がどんな人で
何を考えていて、どんな気持ちでいるのか
それを知らないからかもしれません
そんなことをユーザーから教えてもらいました
ユーザの声に耳を傾けていると
結局私が作ってきたものは
一般の色覚の人と色弱の人、その間の
翻訳機みたいなものだったのではないかなと
そう思えてきました
「色のシミュレータ」は一般の人にわかるように
色弱の人の見え方を翻訳するもので
「色のめがね」は色弱の人にわかるように
一般の人の色の見え方を翻訳するもの
辞書に例えると英和辞典と和英辞典
そんな関係の技術だったのです
もともとは、生まれ持った肉体の不便さを補う
そのために作った技術でしたが
実はそれは人と人の
相互理解のために役に立っていたのです
そして、そのような手助けをすることこそ
今、技術が向かうべき方向性のひとつなのではないか
そのように私は信じるようになりました
そう思って作ったのが
次の「明るく大きく」というアプリなんですが
これは老眼や眼の病気などで
小さな字が見えない人、読めない人
そんな人のために字をすごく読みやすくする
そんなアプリです
これら3つのアプリは全部無償で公開されていて
世界の10万人以上の人に使ってもらっています
次に私が作りたいのは、耳、音に関する技術を
作りたいと思っています
私の父は82歳ですが
耳が遠くて、大きな声で話しかけないと聞こえません
本当は、補聴器という音が大きく聞こえる装置
それを耳に付ければいいのですが
音が悪いから、使いづらいからと言って使いません
だから、私は次はすごい補聴器を作りたいのです
人と話しているときは 雑音は小さくて人の声だけはっきり聞こえ
静かな秋の夜には小さな虫の音が綺麗に聞こえて
音楽を聴いているときは、音楽がすごくいい音で聞こえる、
そんな補聴器です
そして、本当はクラシック音楽が好きなのに
最近ぜんぜん音楽を聞かなくなってしまった父を誘って
2人でコンサートに行って
一緒にモーツアルトを楽しみたいのです
それが私の次の目標です
技術は、人と人の気持ちを繋げるのです
ありがとうございました
(拍手)