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沖縄の限られた地域にのみ生息する、クロイワゼミ。
体長は二センチと非常に小さく、全身緑色をした極めて珍しいセミである。
五月から七月の日没後、毎日、午後七時十五分頃に鳴き始め、きっかり三十分で鳴き止む。
一斉に鳴くことでパートナーを誘い、交尾して子孫を残すための習性と考えられているが、
しかしなぜ、時計のように正確に時刻を計ることが出来るのか、その謎は全く解明されていない。
ほとんどの生物には、体内時計と呼ばれるメカニズムがあり、それに従って睡眠や活動を行っている。
その多くは日の出の光で時刻合わせを行っているが、
植物の開花には気温が関係しているし、
潮の満ち引きで体内時計を調節する生き物もいる。
しかし、機械時計に比べれば、体内時計はさほど正確なものではない。
むしろ、ある程度のあいまいさを残すことで、多様な環境に順応する能力を得てきたと捉えることができる。
アブラゼミやクマゼミなどの大型のセミは、日中、特に時間を定めることなく鳴くが、
多くのセミが競い合うように一斉に鳴くのは夜明け、または夕方であることが多い。
ここから推測すれば、セミの仲間は体内時計としては最もポピュラーな、日の出日の入りのサイクルを持つとも考えられる。
実際、クロイワゼミも夕方にしか鳴かないのではなく、午後三時を過ぎた頃から散発的に鳴き始める。
しかし、一斉に鳴き始める時刻が、毎日徐々に変わる日没の時刻ではなく、決まって午後七時十五分頃というのは何故なのか、
その時刻を計るセンサはどこにあるのか、
解明の手がかりすらない。
石灰岩帯の広葉樹林に住むクロイワゼミは、生息環境が限られている上に非常に小さく、見つけにくい。
このため、詳細な観察記録はほとんど残されて居らず、
開発による生息地の限定で絶滅の危険性も指摘されている。
世界でも沖縄にしか棲息していないこのセミは、いかなるセンサで自然を計っているのだろうか。
その謎を謎のままに残さず、次の世代に伝えていくことも、私たちに与えられた課題であると言えるだろう。
人類には、これほどまでに自然を計るセンサは無い。
しかし人類には、分析力という種を超えた力がある。
その分析力で自然を計り、多様で美しい地球の姿を守ること、それが人類に与えられた使命といえるだろう。