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ここは カラカスの中心部
後ろには 聖堂が
【ライアン・ダフィー】 ベネズエラは カトリック圏だがー
民俗信仰や オカルトも 混在してる
中には変わった聖人がいてー
現地では〝聖なる悪人〟と 呼ばれてる
世界で最も治安の悪い街に ふさわしい宗教だろう
なぜなら 死んだ犯罪者を聖人と 見なし 崇拝するんだから
[ベネズエラで 慕われる義賊たち]
昨年ベネズエラでは 1万4000人以上が殺された
革命運動のおかげで 貧困は減ったがー
町の治安は 一向に改善されない
物騒な社会の中で 悪人崇拝が始まった
これはカトリックと オカルトが融合した信仰だ
【社会学者 ヘルナンデス氏】 まずは 社会学者に 話を聞いた
ベネズエラでは 独特な 天国の概念や 民俗信仰がー
国民の間で広まった
ベネズエラの価値観と アフリカを起源とするー
死者崇拝が 融合したんだ
緩く解釈した カトリックの教えも入ってる
興味深いのはー
信者のほとんどが 貧困層だということだ
主に崇拝されるのが マリア・リオンザ
アリクイにまたがった 裸の女性だ
彼女がー
聖人たちの女王だ
配下には 様々な聖人がいる
医師やインド人—
バイキングや 革命家まで
カラカスの現状を 象徴するのが〝聖なる悪人〟
彼らは 15年ほど前から 新聖人として加わりー
ベネズエラで 広く受け入れられた
聖なる悪人のリーダーは イスマエル・サンチェスだ
昼下がりだ
イスマエルや 他の悪人たちが 埋葬された墓地に来た
信者は ここへお参りに来る
イスマエルはー
普通の人間でありながら 数々の奇跡を起こした
だから崇敬されてるのよ
参拝者は 囚人がー
自由の身になれるように お祈りする
ただ 多くは殺人犯だから 出所は 罪の重さ次第ね
祈りを捧げ 救いを求めればー
囚人が釈放されるか否かを 教えてくれる
この宗教ではー
死者の魂は 不滅だとされている
この世で 信者たちを 見守ってくれているとね
だから信者は 死者に 救いや 加護を求めるんだ
オマールは 自称イスマエルの墓守だ
ヨハンと バモンデはー
この信仰の司祭役だそうだ
イスマエルは偉大な人物で 貧乏人を救った
だから オレはいつも 彼の肖像を持ち歩いてる
彼は泥棒だったがー
貧しい仲間や隣人を 食べさせるためだった
ロビン・フッドのように 貧乏人を助けたんだ
もちろん窃盗は犯罪だが 裁くのはオレたちじゃない
彼は貧乏人のためにー
泥棒稼業を続けてたが ある日 殺されてしまった
背後から警官に 拳銃で撃たれたんだ
1960年代ごろかな
イスマエル以外にも 悪い聖人がいるらしいね
彼らの話も聞かせてくれ
あそこにいるのは誰?
彼はミゲリート あだ名は〝坊主頭〟
彼は 強盗をしたが 他人のためではなかった
あっちには別の墓が
イザベリータだ
こいつはフレディ
こっちにもいる
こいつは〝マウス〟だ
あの黒人は 〝オイル〟と呼ばれてる
そっちはエリザベス
お祈りの方法は 十人十色でー
花を捧げる者もいれば 麻薬をお供えする者もいる
ロウソクでもいいがー
イスマエルが喜ぶのは 酒とタバコだ
祈り方を教えてやる
胸に十字を切ってから 口にタバコをくわえさせる
彼はヘビースモーカーだった
1日の参拝者数とー
平均的な参拝時間は どれくらい?
毎日たくさんの人が来る
みんな タバコを供えたり 酒を飲んだりー
楽しいよ
ここで 泣いてる人もいる
家族の誰かが 闘病中や 服役中でね
他人の死を望む人もいる
「息子を殺した男を 殺してくれ」とかね
先に殺した方が悪いだろ?
悪事を願ってるんじゃない
もし家族が殺されたらー
復讐しないと 気が済まないだろ
何でも頼めるわけじゃない
でも 身を守るためにー
助けが必要なら お願いすればいい
オレたちの住む世界ではー
ほぼすべての人間が 心の中で悪意を抱いてる
欲や嫉妬から 他人を 傷つけたいと思ってるんだ
棺が運ばれてきた
先日 子供が殺されたらしい
その後 銃声がしたので この場を離れた
埋葬の時に鳴らす銃声が 多ければ多いほどー
恨みが深いという意味だ
墓地の近くの店先にはー
悪人の像が並べられていた
中に入って 店主に 話を聞いてみよう
店主は霊媒師だった
イスマエルの許しがあれば 話に応じると言う
これがリーダーの イスマエルだ
仲間もいる
目の上に傷があるのは アントニオだ
ケンカの時に ナイフで 切られたのだろう
こんなのもいるぞ
田舎のチンピラ ジョニーだ
トマシートもヤバそうだな 帽子をかぶってる
おそらく 彼は他の連中よりも ずる賢いんだろう
後ろに 銃を隠し持ってる
彼女が イスマエルと 交霊してくれるそうだ
イスマエルが降霊すればー
病気が治ったり 心臓の手術も行えるのよ
でも それには 良い霊媒師が必要
薬物に依存してるなら 彼が克服を助けてくれるしー
道を誤った人でも 改心できるのよ
彼を信じていれば 不良少年だって 更生できる
信仰心が強ければ 1杯の水でも病気が治るけどー
信じなければ 絶対に奇跡は起きない
アンタは ヒンドゥー教の 霊魂に守られてるのね
エジプトや ヒンドゥー教に関心が?
ああ 興味が湧いてきたよ
エジプトのピラミッドを 見に行きなさい
それと ご先祖の 守護霊がついてるよ
見ただけで分かるのか?
私は イスマエルが 言ったことを伝えているだけ
これは誰にでも できることじゃない
像を買って 彼女に別れを告げた
人間は 何かを 信じることでー
意識を集中させられるんだ
信念の対象は 人間を超越した 存在でなければならない
貧困と暴力の中で暮らす人には カトリックの聖人よりもー
イスマエルのような 悪人のほうが身近なんだ
宗教で 絶対的真理なんて 説けない
善悪だって キッパリと 分けられない
そもそも 完全な善と悪なんて 存在しないんだ
悪人崇拝の背景には 国の惨状が
ベネズエラでは 多くの人が 様々な形で 悲しい目に
主な原因は この国の 非常に高い殺人率だ
しかも 被害者は貧困層ばかりで そのほとんどが若い男性
聖なる悪人の崇拝は 若者を失った人々が負ったー
深い心の傷を癒すための 手段なんだ
字幕翻訳 日本映像翻訳アカデミー 字幕監修 大石レナ