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翻訳: Misaki Sato 校正: Reiko Ogura
本日この場をお借りして
脳損傷の治療の可能性について
お話しできることを 大変うれしく思います
この分野には特に情熱を感じ
私自身 神経科医として
お話しする事は 重篤で治療法もないとされている
お話しする事は 重篤で治療法もないとされている
脳疾患の患者さんに
希望をもたらすと 確信しています
問題を見てみましょう
ここで示すのは
アルツハイマー病の人の脳と
健康な脳です
アルツハイマー病の脳は明らかに
赤丸部分に萎縮 瘢痕などの 損傷が見られます
そして 他の脳疾患—
多発性硬化症(MS)
運動ニューロン疾患 パーキンソン病
ハンチントン病等の画像は
みな よく似ています
これらの脳疾患が総合的に
人々の健康にとっての脅威となっており
その数には実に圧倒されます
今日3千5百万人が
いずれかの脳疾患にかかっていて
世界全体で その年間コストは
7千億ドルと
なんと
世界GDPの1%を
越えているのですよ
そして その状況は悪化しています
ここに挙げた数字は 全て上昇していて
脳疾患は概して
加齢に関係する病気で 我々は長命になっているからです
そこで我々が 考えなくてはならないのは
脳疾患が個人にもたらす 影響は破壊的なものなのに—
脳疾患が個人にもたらす 影響は破壊的なものなのに—
社会的問題の規模も さることながら—
なぜ 効果的な治療が ないのでしょうか?
この事を考えるために
まず脳の働きについて
速習コースを行います
言い換えると私が医大で
学んだ事を全てお教えします
(笑)
そんなに長くはかかりません
よろしいですか?(笑)
脳は実にシンプルです
4種の細胞でできています
そのうちの2種が ここにあります
神経細胞と
髄鞘化した
絶縁体の細胞—
乏突起膠細胞と呼ばれる細胞です
4つの細胞がうまく機能し
健康で調和している内は
電気信号のシンフォニーが 生み出され
この電気信号こそが
我々の思考、感情
記憶、学習、動作、感覚などを支えます
しかし 同様に4つの細胞の内の―
ひとつあるいは全てに不具合が 起きたり 死滅すると
脳は損傷を受け
配線が傷つき
通信が中断され
伝導の遅延が 起きてきます
その結果 この損傷は
疾患の症状として現れます
死滅し始めた神経細胞が
例えば 運動神経の場合は
運動ニューロン疾患を 病むことになります
そこで実際の 運動ニューロン疾患患者に
何が起こるかをお話しします
私の患者でジョンといいます
先週クリニックで診察しました
そこでジョンに最初に
運動ニューロン疾患 と診断された際の症状を
話してもらいました
ジョン: 2011年10月に 診断されました
主な問題は呼吸で
呼吸が困難になりました
SC: お気づきですか? ジョンは
呼吸困難がきっかけで
運動ニューロン疾患が 見つかったと言っています
運動ニューロン疾患が 見つかったと言っています
さて 診断から18か月がたちました
今度は現在の苦境について
語ってもらいました
ジョン: 呼吸がさらに困難になり
腕や手足に力が入らなくなりました
基本的に車いすの生活です
SC: ジョンはほとんど 車いすでの生活を
おくっていると言いました
この2つのクリップが示すのは
この疾患がもたらす 衝撃的変化のみならず
この病気の恐るべき
進行速度です
たったの18か月で
健康な成人男性が
車いすと人工呼吸器に 頼るようになったのです
ジョンはあなたの父親や
兄弟や友人だったかもしれません
運動神経が死滅すると このような事が起こります
ミエリン細胞が死滅した場合は どうなるのでしょうか?
多発性硬化症(MS)を患います
左側のスキャンは
脳の様子を示します
損傷を受けた部分が
脳の接続状態マップに重ねてあり
脳の接続状態マップに重ねてあり
この箇所は 髄鞘脱落と呼ばれる
損傷を起こし 白くなっています
さて 皆さんこうお考えでしょう
「なんだ こいつは最初に
希望について話すと言ったのに
実際に話したことといえば
気の滅入るような話ばかり」
お話ししましたように 脳疾患は恐ろしい病気で
劇的変化をもたらし その患者数は上昇し
コストは膨大で 最悪な事に―
治療法はありません 希望はないのでしょうか?
いいえ 希望はあると 私は考えています
これからお話しする MS患者の脳の部門には
希望があります
なぜなら素晴らしい事に
脳は自己修復可能だ と示しているからです
これでは十分ではない というだけです
よって 2点を示したいと思います
まず このMS患者の損傷の
別の白色部分についてです
赤丸で囲んである
淡青エリアが重要な所で
実は かつて白かったのです
つまり損傷があったのに 修復されています
言っておきますが 医師の力に よるものではありません
医師の介入があったとしても 医師の功績ではありません
自発的な修復で
驚くべきことです
これは幹細胞は 脳にも存在するからで
そのおかげで新しい髄鞘 つまり新たな絶縁体が
ダメージを受けた神経に 敷設されています
この観察例が重要な理由は 2点あります
まずは医大で学んだ 古い常識に反し—
まずは医大で学んだ 古い常識に反し—
少なくとも私は 前世紀には
脳は自発的に
骨や肝臓のようには 再生しないと教わりましたが
このように再生するからです ただ十分ではないだけです
2点目に重要な理由は
新しい療法に 明確な方向を示した事です
つまり これをするには 難しい理論は
必要ない という事です
ただ内からの自発的な修復を
促す方法を見つけ出しさえすれば いいのです
その事が分かっていながら
今まで申し上げたように
治療法が確立していないのは なぜでしょうか?
新薬開発の複雑さが 一部原因となっています
新薬開発の複雑さが 一部原因となっています
薬の開発は高額で リスクの大きな賭けだと
考えられています
それが成功する確率は
約1万分の1です
つまり1つの新薬の開発に なんとか こぎつけるまでに
約1万の薬を試験 する必要があるのです
15年の歳月をかけ
十億ドル以上もかけたとしても
新薬が見つかるとも限らないのです
こうなると重要なことは
ゲームの規則を変えて
この確率を大きく できないでしょうか?
そうする為に
新薬の開発に妨げとなるのは 何でしょうか?
その1つは新薬開発の 初期段階に見られる
動物を使ってのスクリーニングです
アレクサンダー・ポープの言う様に “人間の正しい研究課題は人間です”
アレクサンダー・ポープの言う様に “人間の正しい研究課題は人間です”
ここで問題は疾患の研究に
ヒト生体材料を使えないでしょうか?
もちろん可能です
幹細胞を使用します
ヒトの幹細胞を利用するのです
ヒトの幹細胞は特別な存在ですが
2つの事が可能な シンプルな細胞でもあります
自己蘇生や増殖のみならず
特定の細胞—
骨、 肝臓そして 肝心な神経細胞に分化し
また運動神経や
ミエリン細胞にも分化します
挑戦は長く続き
幹細胞の紛れもない力を
神経細胞再生実現の為に 活用できるでしょうか?
神経細胞再生実現の為に 活用できるでしょうか?
神経細胞再生実現の為に 活用できるでしょうか?
今なら可能だと私は考えます
この10〜20年内で
重大な発見があったからです
その発見の1つは ここエジンバラでなされました
あの羊のセレブ ドリーの事です
ドリーはエジンバラで誕生しました
そしてドリーは
成体細胞から誕生した
哺乳類初のクローンでした
しかし本日の議題にふさわしい
とびきりの突破口は
2006年に発見されました 日本の科学者である―
山中教授によるものです
山中教授が行った事は
素晴らしい科学的な料理法で
材料はたった4種でした
たったの4種で
どんな成体細胞でも
多能性幹細胞(iPS細胞)に 変えてしまうのです
これは言いようもないほど大事なことです
この事が意味するのは
特に患者さんにとってですが—
疾患組織に合った
特注の細胞修復キットを 生成できるという事です
皮膚細胞をとり iPS細胞にし
この細胞を疾患の健康な
細胞に作り替えて
研究や治療に利用するのです
当時の医大では—
私と医大は もうおなじみのテーマですね?
そんな考えは途方もない事でしたが
今や現実となっています
私はこれを再生、修復と希望への 第一歩だとみなしています
私はこれを再生、修復と希望への 第一歩だとみなしています
希望というと
学校を落第したかもしれない
人たちにも望みがあります
これがジョン・ガードンの 通信簿だからです
[科学者志望とは馬鹿げている]
当時相手にされなかった彼が
今から3カ月前に ノーベル医学賞を受賞するなんて
誰が想像したことでしょう
話を元に戻し
幹細胞 すなわちこの破壊的な新技術は
損傷した脳を修復すること
つまり再生神経学に
どのように使われるのでしょうか?
私は2種類の方法が あると考えています
21世紀の新薬発見の道具として
また治療法の一環として
この双方について少し
お話ししていきたいと思います
ラボでの新薬の探索はしばしば
こんな風に言われています
実にシンプルです 患者を1人選び
運動ニューロン疾患患者とします—
皮膚のサンプルを取り
先ほどお話ししたように
再プログラムし 多能性を与え
生きた運動神経細胞を生成します
こんなに無駄がないのは
多能性幹細胞だからこそです
ここで重要な事は その振る舞いを 健康な同種の細胞—
理想的には 発症していない血縁者の細胞と
比較できる事です
こうすれば遺伝性変異を 同定できます
これが我々が行った事です
この仕事のコラボレーターは
英国のC.ショウ 米国のS.フィンクバイナーと T.マニアティスです
ご覧いただいているのは 実に素晴らしい
運動ニューロン疾患患者からの 成長中の運動神経です
運動ニューロン疾患患者からの 成長中の運動神経です
遺伝によって 受け継がれたフォームです
本当に
10年前は想像できなかった事です
成長のプロセスを別として
細胞を蛍光を発するように 作り替える事も可能ですが—
ここで重要なのは 個々の状態を追跡し
損傷した運動神経細胞と 健康な運動神経細胞の
比較ができることです
こうして並べてみると
赤い線で示してある
病んだ神経細胞の死亡率は
健康なものよりも2.5倍
高いことにお気づきでしょう
ここで重要な点は
これは新薬開発にとって 素晴らしい分析指標になります
というのも 私たちが薬に求めるものは—
こういうデータは
高速の自動スクリーニングシステムで処理できますが—
薬に望むことは ただ1つ
赤い線が青い線に近づくような
薬であってほしいという事です
そんな薬があれば 有望な新薬候補として
直ちに治験をすることで
先ほどお話しした 動物利用によって起きる
新薬開発上の弊害を回避し
開発できるでしょう
これが思うようになれば 素晴らしいことです
ここで幹細胞を使って
直接 損傷を修復する方法に
戻りたいと思います
前述のように 2通りの方法がありますが
お互い相いれないもの ではありません
最初の件は長期的な視点で見ると
最大の成果をもたらす方法ですが
今のところは実用化されるとは 考えられていません
先ほどお話ししたように 既に脳内にある幹細胞に
焦点を置くべきです
我々の脳は病気を持っていても
幹細胞があります
だから何らかの方法で
既に脳にある幹細胞の働きを
促進し 活性化して
適切に損傷に対応させて
修復したいのです
将来いずれは実際に
そういうふうに働く薬が 開発されるでしょう
もう1つは直接細胞に 幹細胞を送り込む方法で
脳内の死滅あるいは失われた細胞を
入れ替えるために 幹細胞を移植します
実験についてお話ししましょう
これが最近完了した臨床試験で
UCLの同僚たち
主にデービィッド・ミラーと
一緒に行いました
この研究はシンプルです
MS患者を対象としました
課題は単純です
骨髄の幹細胞は神経を 保護するだろうか?
骨髄の幹細胞は神経を 保護するだろうか?
そこで我々が行ったのは 骨髄から幹細胞をとりだして
その幹細胞をラボで増殖し
それを静脈に注入して戻すことです
とても簡単に聞こえるでしょうが
実は多くの人の5年間が必要でした
あらゆる課題が目前に現れ
5年間で私の白髪は増えました
考え方は基本的にシンプルです
幹細胞を静脈に戻しましたね?
成功の可否を見極めるために
我々は結果の評価として
視神経を測定しました
これはMSの評価には便利なのです
なぜなら悲しいことにMS患者は
失明、視力の低下といった
視覚に問題が生じるからです
デービィッドの撮影した画像から
視神経の大きさを測定します
3回― 12カ月、6カ月
注入の前です―
緩やかに下降する赤い線から
視神経が縮んでいることが 分かります
神経は死んでいくのですから 納得がいきます
幹細胞の注入後
測定を2回繰り返します―
3カ月、6カ月―
驚いたことに
線は上昇していきます
介入治療に保護効果があったことを
示すものです
私自身は幹細胞が 新たに髄鞘や
私自身は幹細胞が 新たに髄鞘や
神経を作ったとは思いません
幹細胞が行った事は
内生する幹細胞つまり先駆細胞に
仕事をさせ 新たな髄鞘を敷設した と私は考えています
まずは概念を示すことができました
非常に興奮を覚えます
そこで最初に私が提示したテーマ
再生と希望で 締めくくりたいと思います
ジョンに将来の望みを 聞いてみました
ジョンに将来の望みを 聞いてみました
ジョン: 私の望みは
将来いつか―
皆さんが行っている研究の結果
治療法がみつかり
私のような人々が普通の生活を 送れるようになる事です
SC: 多くを語っていますね
まず ジョンに感謝を したいと思います
洞察とビデオを 共有してくれたことに
お礼を言いたいと思います
ジョンや皆に 一言付け加えさせて下さい
私は未来に希望を持っています
ご説明してきたような 幹細胞のような
破壊的技術革新が 現実的な希望をもたらすと
信じています
傷ついた脳を修復できる日は
我々の予想よりも
早くやってくると思います
ありがとうございます
(拍手)