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翻訳: Tatsuaki Iriya 校正: Masaki Yanagishita
本日はみなさんに
生体工学
つまり身体の一部を
メカトロニクス機器やロボットで置き換えるという
科学分野についてお話ししようと思います
これは正に
生体と機械の融合です
特に 腕を失った人の為に
生体工学が
どう進歩しているかをお話しします
我々の研究動機です
腕を失うとは大変なことです
単純な不便さは勿論でしょう
手は素晴らしい道具です
片手を失っただけで
日常的に必要とされる
身体的行為が難しくなります
そして大きな精神的ダメージ
私の診療室では 身体的不自由さと
同じくらい 精神的ダメージの治療にも
時間をかけています
社交上の問題もあります
我々は手で話し
手で挨拶をし
手で外界とやりとりをします
手がなくなることは
障害を意味します
腕の切断の多くは
工場事故や交通事故
そして悲しくも
戦争による外傷の結果です
生まれつき腕のない子もいます
先天性四肢欠損です
残念ながら義手の製作は
困難を極めています
義手には2種類あります
こちらは身体操作型義手といって
南北戦争直後に発明され
第1・2次世界大戦中に改良されました
これが1912年の
特許申請書です
現在の義手と そう違いはありません
肩の筋肉で制御するものです
肩をすぼめるとケーブルが引かれ
手やフックを開いたり閉じたり
肘を動かせます
この義手は今でも使われています
とても頑丈で単純な構造ですからね
最先端のものは
筋電義手という義手です
筋肉からのわずかな
電気信号により
モーター駆動される義手です
筋肉を収縮させる時
わずかな電気信号が流れ
それを電極やアンテナで読み取り
義手の操作に用いるのです
手を失ったばかりの人の場合
この義手をとても上手く操作します
手の筋肉がまだ残っていますから
手をすぼめればこの筋肉が収縮し
手をひらけばこの筋肉が収縮し
直感的に上手に使うことができます
しかしもっと上部で 腕の大半を切断するとどうでしょう
この筋肉だけでなく
手と肘そのものがありません
どうしましょう?
そのような患者さんは
腕の筋肉だけで
ロボット義手を動かす
技術を要する方法をとります
ロボット義手ということです
このように様々な種類があります
開閉する手と 回転する手首と
肘があります
機能はそれだけです
機能を増やしても制御方法がありません
そこで シカゴリハビリテーション研究所(RIC)では
手首の屈曲と
肩の関節を加え 6つのモーターで
6自由度を持つ試作品を作りました
さらに我々は米軍から研究費を得て開発された
可動式の手を持ち
最大10の自由度を持つ
進歩した義手を
使うことができました
しかし結局どう義手に
命令を伝えたものでしょうか
どう操作すれば良いのでしょう?
その為には神経系あるいは思考過程と
繋ぐことで身体の一部の様に
直感的かつ自然に操作できる
神経インタフェースが
必要なのです
脳から発する運動命令は
脊髄を伝わり末梢神経をとおって
末梢に伝わります
感覚はその反対です
刺激は全く同じ神経を逆に辿り
脳に伝えます
腕を失ってもまだ神経系は働きます
まだ脳の指令を送ることができます
そして退役軍人が失った
腕の端の神経を触ると
彼はまだ手を感じるのです
それならば脳を開けて
脳内に何かを埋め込み
信号を記録したり
あるいは末梢神経の末端で
信号を記録したりしてみよう
確かにそういう研究もありますが
これは恐ろしく難しいのです
数百の微小電極を埋め込み
信号を発する小さな個々のニューロン - 普通の神経線維 -から
マイクロボルト単位の
信号を読み取る
必要があります
これは現在 技術的に
難度が高過ぎます
そこで違う方法を考えました
神経信号を増幅する生体機能
つまり筋肉を使えば良いのです
筋肉は神経信号を
数千倍に増幅するので
先程お見せしたように 皮膚の上からでも
信号が取れます
特定領域への神経支配再確立とでも言えましょう
腕を失っても
(腕を支配する)4つの主要な神経が まだ残っている患者を
想像してみて下さい
その患者の胸筋から神経を取り除き
代わりに腕の神経を埋め込みます
「手を握ろう」と考えれば胸の一部が収縮し
「肘を曲げよう」と考えれば
胸の別の場所が収縮します
その動きを電極やアンテナで
読み取り義手を操作すればいい
これが我々のアイデアです
この義手を初めて試した患者です
ジェシー・サリヴァンという名で
とても穏やかな方です
架線作業中に触る電線を間違え
両の手に重度の火傷を負い
肩から先を切断しました
そして最先端の義手を試すため
RICの私たちのところにやって来ました
右腕はケーブル操作する
旧型の義手を使っています
動かす関節はアゴのスイッチで選びます
左では3つの関節を持つ
モーター駆動の義手で
肩のパッドで動かしています
腕の操作に使うためです
ジェシーは操縦が上手く
私たちも満足でした
加えて彼は胸の追加手術も必要になりました
これをよい機会に我々は
特定領域への神経支配再確立手術を行いました
手術を行ったのは 同僚のグレッグ ドゥマニアン博士です
まず胸の神経を取り除き
腕の神経を取り出し
それを胸に植え込んで
傷口を塞ぎました
3ヶ月後には神経も少し伸び
胸をピクピク動かせるようになり
6ヶ月後には神経も十分に伸びて
強い収縮も可能になりました
このような感じです
ジェシーが手を開閉させようと思うと
この動作がおきます
肘を屈曲したり伸ばそうと思うと
胸がこう動きます
この小さなしるしは
アンテナや電極の位置です
こんな風に胸を動かせる人が
もし会場にいれば教えてください
彼の脳は腕のことを考えています
胸をこんな風に動かす方法を 学んだわけではありません
学習過程はありません
直感的なのです
これが最初の動作テストです
左側は元の義手です
スイッチを使って
積み木を ひとつの箱からもう一つの箱へ移しています
20ヶ月も使用した義手はよくなじんでいます
右側は私たちの
「特定領域への神経支配再確立」を使って 2ヶ月目の映像です
機器としては同じ義手で
制御ソフトが違うだけですが
動作は明らかに速く
スムーズに積み木を移しています
この時点で3つの信号を使っているだけです
ここで驚くべき科学的発見がありました
私たちはロボット義手を操作するための
運動指令を得ようとしていた訳ですが
数ヶ月後にジェシーの
胸に触れると 彼は
失った手を感じました
手の感覚が胸に戻ったのです
手術で脂肪を取り去ったので
筋肉と皮膚が近づき
以前あった神経支配を取り除いたのでしょう
ここを触れば親指を感じ
ここを触れば小指です
1 gほどの小さな
力でも感じます
熱さ、冷たさ、鋭さ、鈍さ
全てを失われた手で感じます
胸の感覚も残っていますが
意識できるのは一方です
これはとても面白いことです
なぜなら これは感覚の再現に繋がる可能性があり
あるいは末梢神経の末端で
触れたものを感じる義手の製作にも
繋がる可能性があるからです
義手センサーからの信号が
胸の「手」に伝わればいいのです
これは面白い
我々はまた 当初注目していた
肘から先を失った多数の患者の
義手についても考えました
筋肉の一部から神経を切り離して 神経支配を除き
ほかの部分では神経をそのままにすると
上下運動を伝える神経と
手の開閉を伝える神経を
作れます
彼は初期の患者のクリスです
左側は8ヶ月使っている
なじみの義手で
右は2ヶ月目の義手です
4~5倍のスピードで
動作テストをこなしています
この仕事が好きなのは
研究仲間である患者さんが
同時に共同研究者だからです
本日その一人のアマンダ・キッツが
会場に来てくれました
アマンダ・キッツです
(拍手)
アマンダ どうして腕を失ったのですか?
2006年に交通事故に遭いました
仕事から帰る途中
反対車線のトラックが突っ込んできて
車の前面が潰され その時
トラックの車軸に腕を巻き取られました
そうですか 腕を切断したあと回復したのですね
従来型の義手を使ったと思いますが
使い心地は如何でしたか?
少し難しかったです
上腕二頭筋と上腕三頭筋しか使えなくて
例えば何かを拾うという簡単な動作にも
まずは肘を曲げ
筋を同時収縮させ
モードを変える必要があります
そして
上腕二頭筋を使って
手を閉じて
上腕三頭筋で手を開き
また同時収縮させ
肘をまた動かすのです
時間がかかりますか
少し遅いし とにかく大変なのです
集中力が要ります
オーケー そして9ヶ月後に
「特定領域への神経支配再確立」手術を 受けたと思いますが
神経支配が再確立するには さらに半年程かかったと思います
そして改めて作った義手は
どうでしたか?
良かったですよ
肘を使いながら
手も一緒に動かせるし
それも思うだけで動かせます
同時収縮などあれこれ面倒はありません
速くなりました?
少しだけ速いです ただすごく簡単で自然です
それを目指していたんです
20年間 私の目標は患者さんが
肘と手を直感的に そして同時に操作できる
義手の製作でした
そして今 50人以上がこの手術を受けました
何十人もの米軍の
負傷兵も含まれます
手術の成功率は極めて高く
96%程成功しました
太い神経を細い筋に移植しているからです
この手術が直感的な操作を可能にします
動作テストでは 速さと
簡易性の向上が示されました
そして何より
患者さんが喜んでくれました
これが楽しかった
しかしまだ改善したい
神経信号には多くの情報が含まれていますが
もっと情報を引き出したい
指一本づつ 親指 手首を動かせます
しかしもっと何かできないか?
実験を行いました
患者さんに無数の電極を取り付け
指先の動作から 何かへ腕を伸ばす
腕全体の動作まで20あまりの動作を
試してもらい
データを集めました
そしてパターン認識と呼ばれる
音声認識によく用いられる
アルゴリズムを適用しました
どうでしょう
(笑)
ジェシーの胸を見れば
3つの動作に対応する
3つのパターンがわかります
しかし電極に対し具体的な
動作の指示はできないので
ニューブランズウィック大学と共同で
アマンダがこれから披露する
アルゴリズム制御を開発しました
まず肘を上下に動かすことができます
手首も回せるし
しかもグルットとも回ります
手首も屈伸します
手の開閉もできます
ありがとう アマンダ
これは実験段階の義手ですが
ここから下は市販の部品でできています
残りの部品は世界中から借りてきました
3 kg程の重さです
私の腕を切り落としたら きっと
そのくらいの重さです
アマンダにはちょっと重いはずです
しっかり取り付けていない義手なので
余計重く感じます
装着具でつけた腕ですからね
つまりメカトロニクス部分は 胸躍るようなものではありませんが
制御が素晴らしいのです
我々は小型のマイコンを開発しました
アマンダの首の後ろでチカチカしながら
彼女がそれぞれの筋肉からの
信号パターンを使って 訓練に従って
動作しているのです
アマンダ この義手を使い始めた時
慣れるまでどのくらいかかりました?
自分に適応させるまでに3-4時間といった
そんなところです
その間はコンピュータの側を
離れることはできず
コンピューターが止まったら 外さなければいけません
今は背中の
小さな装置で同じことができ
いつでもつけていられます
何かの理由で働かなくなっても もう一度訓練して
今度は1分程しかかかりません
つまり臨床的に使えるものを
開発できて 我々はとても興奮しています
実用に足るような そんな機器を
作るのが我々の望むことだったからです
アマンダにはもっと進んだ
義手も使ってもらいました
これはDEKA社の義手です
ディーン・カーメンが 数年前TEDでデモを行ったものです
とてもスムーズに
制御できています
パターン認識の成果です
違った握り方のできる義手もあります
患者さんに義手の手を広げてもらい
「どんな握り方をしたいか」考えてもらうと
そのモードになり これで
5〜6種の握り方ができます
アマンダ いくつの握り方ができますか?
4つです
キーグリップ、チャックグリップ
強く握ること そして
つまむことができます
でも手を開いているのが一番好きですね
子ども相手の仕事では
手を叩いて歌うことが多いんです
それがまたできるようになったのが嬉しいです
この義手は拍手向きではないようで
難しいですね
ありがとう
メカトロニクスが進歩し
実地試験ができれば
何ができるか楽しみです
ではこちらをご覧下さい
(オー!)
この患者はクローディアといい
これは彼女が初めて
義手から感覚を得た場面です
義手の先端にセンサーがあり
いくつかの違った表面をなでる毎に
違った感触を感じるのです
紙やすり 砂利 リボン
感触が 「神経支配を再確立した手」の皮膚に伝わります
テーブルをなでると自分の指が
揺れ動くのを感じると言います
これが皮膚感覚フィードバックの
可能性を示す実験となります
こちらはまた別の挑戦です
ジェシーが泡粒玩具を握ると
強く握るほど胸についた黒い小さな機器が
それに比例して彼の皮膚を強く押します
ただ多くの電極を見ればわかる通り
皮膚の表面にぎっしりです
多くの電極を繋ぐ必要があり
電極に付属するモーターは
とてもうるさいです
課題は多いですが我々は挑戦を続けています
将来は明るいです
今の技術にも 将来の技術にも希望が一杯です
例えばもっと
皮膚表面の問題を解決して
良い信号を得ることだとか
米粒のように非常に小さく
筋肉に入れることができ
EMG信号を遠隔で取得できる
カプセルを開発し 煩わしい配線などに
気をもまない様にしたいだとか
感覚のフィードバックを得るために
皮膚につけるものを減らすとか
とにかく良い義手を作りたい
この義手は平均的な男性用のサイズです
全人口の5/8の人間にとっては大き過ぎます
そのため 私たちは強く 速い義手よりは
ただ握り・開き
手首と肘だけは動かせる
しかしサイズ的には
平均的な女性用のサイズより
さらに小さい
そんな義手の開発の優先を考えています
その義手は最も小さく軽く
最も賢い義手です
小さな義手を開発すれば
それを大きくするのは簡単です
これらが我々の目標です
今日はここに来てくださり有難うございます
最後に昨日私たちが体験した
義手の難しさについてお話します
時差ぼけしたアマンダが
義手を操作すると
うまくいきませんでした
システムが変な挙動をし
ワイヤーが切れ
電圧変換機がスパークし
ホテルの電気回路を全て使って
火災報知機が鳴りかけました
その全てに私は対処できませんでしたが
サイモン博士をはじめとする
優秀な研究チームのおかげで
昨日の問題を処理できました
これが科学というものです
幸運にも 今日は問題なく動作しました
ありがとうございました
(拍手)