Tip:
Highlight text to annotate it
X
Anna…
トゥールーズ、続きを読んでくれないか
え?
幽霊伝説ならば、続きがあるはずだろう
幽霊…伝説…
んとねぇ、『その夜、邸には一晩中ピアノの音が鳴り響いていた。もう触れることすらできない愛する人へ向けて』
William様が彼女によく弾いて聞かせた曲
スカーボロの市場へ行くのなら
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
そこに住むあの人に伝えて下さい
彼女はかつて私が心から愛した人
私の為に白い麻のシャツを作るよう
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
針も使わず縫い目もつけず作るよう伝えて欲しい
そうすれば本当の恋人になれると
離れた恋人を思う男が、実現できない数々の難題を乗り越えれば、再び愛し合えるだろうと、悲しい望みを綴った歌だ
William様は、二人の恋はもう叶わない
だがいつの日か奇跡が起こり、愛し合える日を信じていると、Annaに伝えようとした。そしてWilliam様は、奇跡を起こそうとしていた
え…??
愛は二人に不可能な課題を与える
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
どんなに強く見える愛情もきっと運命に試される
そして私は確信する。彼女が私の真実の愛であることを
彼はAnnaへ手紙を書いた、そして、彼らがいつもそうしていたように、Annaが必ず磨く花瓶の中へと入れたのだ
翌朝、Annaはいつも通り誰よりも早く起きて身支度をし、最後の仕事をした。そして彼女は、ホンの一寸の望みを託して花瓶を手に取る
William様…
アンナへ
パセリ、セージ、ローズマリー、タイム、スカボローフェアで…。 これ…歌の歌詞だったんですね
William様は、奇跡を諦めないとAnnaに伝えようと、彼女にしかわからない言葉で
それじゃ…
さようなら。永遠に
え?どうして?手紙が違う……
私が差し替えたのだ
どうして!?
彼らがマナーハウスのマナーを破ろうとしたからだ。この家を守る、それが私の役目、それが私の立場だからだ
Annaは人知れず邸を去った。William様は、Annaが自分との恋を諦めたのだと思い、翌日ジョーンズ家の次女との婚約を決めた
Annaは…スカラリーメイドの噂など、風さえも運んでは来なかったが…どこかで命を絶ったのだろう
Anna…
そしてそれから…この邸には
この邸には恐ろしい現象が起こるようになった。明け方になると部屋のあらゆる所で物音がし、床は水浸し、窓は開け放し、そして必ず花瓶が割れる
…誰も口にはしなかいが、住民の誰もが彼女の仕業と気づいた。何故なら、それは邸にいた時の彼女の仕事ぶりそのものだったからだ。だって
しかもこのSmith家って、20年後に没落したらしいよ
ええ?お坊ちゃま結婚しなかったの?
結婚はしたが…失意から荒れた生活をして体を壊し、3年後に亡くなった
むろん、後継ぎは生まれずサー・スミス、マダムスミス、使用人たちも次々と病に倒れ、残された使用人たちは恐れて邸を去った。Sebastianを残して…
完璧な呪いだ…
あそこまでされたら、呪い殺したくもなるわよ
俺たちも…こんなことしてて、呪われないのかな
やめろよ
あたしたち何も悪いことしてないじゃん
本物の幽霊さんにしてみたら勝手に侵入してるわよね
しかも遊んでると思われるかも
呪いだなんてそんなこと言わないで下さい!
アンナ…?
Annaさんが呪いなんて…そんなことあるわけないじゃないですか
何ムキになってんのよ
いいのよアンナ、事実なんだから
え!?呪っちゃったの?
私はいつでもそう。どじでのろまな亀なの
ん?
のろまのAnnaって、よくそう言われたわ。のろいのよ、私
あ、そっちのノロイか…。まだ気づいてないの?
え?
アンナ、さっきから変よ
いぇ、なんでも
さよう、没落は呪いなどではなく、時代だったのだ
伝説も幽霊話が好きなイギリス人が騒ぎ立てたにすぎん。それでも執事は、自らがこの邸を滅ぼしたという罪悪感に苛まれただろうが…
アンタ、トテモクワシイね。ホンモノみたいね
だって、先生ですものねぇ
…私はそれほど本物にはなれまい。さぁ。余響は終わりだ。仕事に戻りたまえ
は~い