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ヤクザ史に残る伝説的抗争事件の真実
ある地方都市で起きた暴力団抗争。
その手口はヤクザ抗争史に残るべきほどのあざやかさだった。 狭い街で起きた顔見知り同士の抗争。
もともとこの地域に古くから根を張るA組の組員が、付き合いのあった別のB組の組員とささいなトラブルを起こし、A組の組員がB組の組員を刺殺する。
これに対してB組が報復(カエシ)を行った、というのがこの抗争劇の発端だった。
この地域は地方都市という事もあって、人の流出入はさほどなく、タクシーに乗ったら運転手が同じ高校の卒業生だった、なんてこともめずらしくはなかったという。
それは不良業界も同じで、A組とB組というふうに別々の組織であっても、組員同士は中学の同級生だったり、昔、こいつの妹と俺の後輩が付き合っていたとか、使っている車屋が同じだったりと何かと繋がりがあるのが日常化していた。
そんな状況下であっても、組同士の抗争が発生する時はある。 理由は単純だ。 A組とB組は別々の組織だから──ただそれだけのことである。
ただそれだけのことで、ときには殺しあうのが、暴力団員という生き物なのである。
そして知った者同士でケンカをしたら、相手の手口も知っているし、隠れ場所もお互い把握しているので、やりやすい面もあればやりにくい面もある。
過去の抗争ではこのパターンが結構あり、日頃の付き合いもあって身の振り方に困ってしまう組員も少なくなかった。
だが今回、B組のとった手段は、そののち長く業界中に語り継がれるほど、画期的なものであった。 単純すぎて盲点だった戦略とは!?。
組員を刺殺され、A組に対する報復を開始したB組は、こうした問題をクリアにするために、この地域にいるB組の組員を全員即時、引っ越させたのである。
そして、A組と日頃の付き合いがまったくない別の組員たちを上部団体から借り受け、この地域に送り込んだ。
A組はもちろん警察にすら顔を知られていない完璧なヒットマンを多数、B組はこの地域に潜ませた。 その日から、A組はパニックに襲われた。
誰に狙われているかも分からず、反対に誰を狙えばいいのかも分からず、すべて予想すら出来ない状況に陥ってしまったのだ。 1日ごとに、A組だけ死傷者の数が増え続けた。
地元老舗組織だけあってA組も数か月間、抗争を持ちこたえたが、「見えない敵」との戦いは予想以上の疲労と摩耗と疑心暗鬼を生み、A組はやがて降参するしかなかった。
戦術とは、緻密であったり綿密であるものだけがよしとされる傾向があるが、人力で行う以上、時として、シンプルかつ大胆不敵に行うことも大切なのである。
知っている者同士でケンカをやるしかないのなら、知らない者を送り込めばいい──そんな単純きわまりない戦術が、ときとして誰もが予想しなかったほどの破壊力を持つときがあるのだ。
会議に会議を重ねて、誰から見ても最善と思われる方法を選択するのではなく、経験から得たカンだけを信じたB組の戦略眼のすさまじさは、暴力団だけでなく、様々な一般企業にもなにかのヒントをくれるのではないだろうか。