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原子力が一時的なエネルギーだと考えてきたのは 私だけではありません。
原子力は決定的なエネルギーではないと考えてきました。
原子力は非常に大きな利点があると同時に 大きな欠点をもったエネルギーです。
利点は、原子力がきわめてコンパクトなエネルギーだという点です。
このコンパクト性はいってみれば 都市のコンパクト性に呼応するものです。
欠点はといえば、二つしかありません。 しかし大きな欠点です。
一つは重大事故です。 もう一つは廃棄物です。
私はジェラール・アルトンです。 私の経歴には二つの大きな特徴があります。
一つはこれまでずっと原子力に携わってきたこと。 もう一つは、ずっと原子炉の設計をしてきたということです。
キャリアの最後の方では 日本の会社と日仏共同の原子炉設計をしました。
福島第一原発で事故がおこったとき、 すぐ事態の深刻さを理解しました。
原発事故には二つの過程があります。
炉心がやられていないかぎり、炉心、 つまり燃料が原子炉容器のなかに納まっているかぎり、
容器に穴が空かないかぎり、 事故を制御することができます。
しかし容器に穴が空いてしまうと事態は もっと深刻になり被害がでます。
その時点から風がすべての鍵を握るようになります。
風が放射能汚染を決定するからです。
ですから風の向きによって事故の重大さは小さくなったり、 中くらいの重大さになったり、とても重大になったりします
だから12日から私は風を観察しました。
風はつねに西から東へと吹いていました。
つまり太平洋の方に向かって吹いていたわけです。 それは幸いでした。
もし反対に東から西に吹いていたら、 日本はいま二つに分断されているでしょう。
汚染地域が広がり、 東京から北海道に直接行くことができなくなっていたでしょう。
結局それはほんとうに、不幸中の幸いでした。
日本政府によれば 事故は収束に向かっているということになっているけれど
原子炉の完全な制御は不可能だ。
あれほどひどい損害を受けた原子炉に関して 制御という言葉を使うことはもうできません。
今日テプコがやっていることは、原子炉の冷却です。
核燃料は冷やされなければ溶けます。 溶けると炉心溶融物が流れでます。
溶岩みたいなものです。 きわめて放射性の高い溶岩です。
そこからエアロゾル粒子が発生します。 放射性の高い雲のようなものです。
そこからが重大になるわけです。 雲を制御することはできません。
雲は風に乗ってどこにでも飛んでいってしまいます。 だから風が重大さの鍵になるわけです。
この雲が危険さを増すのは雨が降ったときです。 福島でそうなったように。
雨が降らなければ雲は薄まっていきますが、
雨が振ってしまうとエアロゾル粒子は地面に叩きつけられ、 地面を汚染します。
簡単にいえば、原子力をもつようになるのと同じくらい、 原子力を脱することは難しいことです。
奇跡などありえません。
単純な問題です。 原発といってもその建設は、オーソドックスな方法で行われます。
クレーンや労働者を使って作るわけです。 彼らが原子炉に入って作ります。
けれども解体しようと思ったら、 もう入ることはできません。
原子炉も、 その他のさまざまな部品もすべて汚染されているのですから。
人はもう 原子炉やその他の材料に近づくことはできないのです。
そうなったら遠隔操作しかありえません。 ロボットを使ったりとか。
これは事故にあった原発の話ではありません。 あくまでも解体の話です。
事故にあった原発というのはあまりにも大きな問題で、 今日それをきちんと扱える技術などがあるとは思いません。
はっきりとした予測ではありませんが、 どうでしょう、五十年か百年はかかる問題です。
とにかく時間がかかるでしょう。 そのいい証拠がチェルノブイリです。
チェルノブイリにはあの巨大な石棺のようなものがあって、 それがまた漏れはじめている。
また石棺を作りなおさなくてはいけないわけです。
そして溶融物に近づくことはもちろんいまだにできません。
ですから日本が脱原発を決定しても、 だからといって原子力からすぐでられるわけではありません。
それどころか、きわめて専門化された人材を 確保しつづけて解体を進めなくてはなりません。
しかし解体するには、 廃棄物を納める場所がなくてはなりません。
原発には二種類の材料が収納されています。
一つは、まだ使われていない材料です。この解体は簡単で、 普通の工場を解体するのとなんら変わりはありません。
けれども原発にはこのオーソドックスな部分と、 原子力の部分の二つが共存しています。
そしてこの原子力の部分はそう簡単にはいきません。 核物質の廃棄の問題です。
どっちがいいのでしょう、地球温暖化でしょうか、 それともそうした核物質の処理でしょうか。
社会はまだこの問いに答えていません。
答えはじめたところかもしれません。 原発事故が起こって答えはじめた。
なぜなら原発事故は目立つからです。 たとえばアメリカを襲う台風よりも目立ちます。
なぜならアメリカがまだ完全に 温暖化がなにを意味するのかを把握していないからです。
でも同じ問題です。
事故を完全になくすことはできません。
だから原子力は一時的なものだと思います。
原子力は二十世紀後半に出てきたエネルギーで、
まだしばらく続くかもしれませんが、 いつかはそこから出て行くでしょう。
出て行くのにはとても時間がかかるでしょう。
代わりとなる他のエネルギーも見つけなくてはなりません。
今日私たちはまだいい代替案が見つかっていません。
原発社会が原発社会でなくなるのは 大変時間のかかることです。
日本が脱原発を決定しても、 私の息子は日本における原発社会の終わりを見ることはないでしょうし、
彼の孫だって完全な終わりを見ることはできないでしょう。
そう簡単に止めることのできるものではないのです。
私たちは産業社会の道を歩んできたわけですが、 原発はこの私たちの産業社会を反映しています。
フクシマは私たちが作ってきた産業社会に起きた事故です。 そういうことです。