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翻訳: Yuko Yoshida 校正: ASAKO SHIMAOKA
これは 地球の画像です
アポロ17号から撮影された あの有名な写真に
よく似ていますよね
でも ちょっと違います
この画像はクリックでき
クリックすることで
地球上の ほぼ全ての地点に ズームインできます
例えば これは 空から見た―
ローザンヌ工科大学(EPFL)の キャンパスです
多くの場合
近くの通りから見た 建物の様子も見ることができます
本当に素晴らしいことです
でも この素敵なツアーには あることが欠けています
「時間」です
この写真がいつ撮影されたのか 分からないばかりか
空撮写真と 同じ時期に
撮られたのかさえ 分かりません
私の研究室で 開発しているツールは
空間だけでなく
時間を超えて 旅ができるようにします
私たちが投げかけている 問いはこうです
過去のGoogleマップのようなものを 作れないか?
過去のGoogleマップのようなものを 作れないか?
つまり Googleマップの上部に スクロールバーを付けて
それで年を遡れるように できないか?
百年前や
千年前の様子を
見られるようにできないか?
過去のソーシャル・ネットワークを 再現できないか?
中世のFacebookを作れないか?
タイムマシンを作れないか?
単に「不可能だ」と言うことも できるでしょう
しかし 情報という観点から 考えたらどうでしょう
これは 「キノコ型情報」と 呼んでいるもので
縦軸に 時間
横軸に デジタル情報蓄積量を 示したグラフです
過去10年 たくさんの情報があることは 一目瞭然ですね
そして 時間を遡るにつれ 情報は減っていきます
過去のGoogleマップや
Facebookを作るためには
この部分を広げて ちょうど
長方形にする必要があります
どうすればいいでしょうか?
1つは デジタル化です
資料は たくさんあります
新聞や書籍― それも何千という書籍です
これらを全て デジタル化して
そこから情報を 抽出できます
もちろん 昔に行くにつれ 情報は少なくなるので
十分では ないかもしれません
ですから 歴史学者のように
「推定」を行うのです
コンピュータ科学の世界で言う シミュレーションです
ここに 航海日誌が あるとしましょう
それを ただの日誌で バチカンの船長が
ある航海をつづるもの と捉えるのではなく
その日誌に 書かれているのは
当時 数多くされた航海の 代表例だと捉えるのです
こうして推定を するわけです
建物の外観を 描いた絵があれば
それを単に 特定の建物を 描いたものとするのではなく
おそらく同じ構造は 情報が残っていない―
ほかの建物にも 採用されていたと考えるのです
ですから タイムマシンを作るのに
必要なものは2つです
大量の保存記録と
優秀な専門家です
ヴェネツィア・タイムマシンという
プロジェクトについて お話しします
これは ローザンヌ工科大学と
ヴェネツィア・カ・フォスカリ大学との 共同プロジェクトです
ヴェネツィアに 特有なのは
政府がずっと
非常に官僚的であることです
あらゆることを 記録してきています
今日のGoogleのようなものです
ヴェネツィアの古文書館には
全長80キロにわたる 保管庫があり
ヴェネツィア生活の 全てが
千年以上にわたり 記録されてきています
出航・到着した船も
全て分かります
市内の あらゆる変化が 記録されています
これらの情報は 全て そこにあるのです
今 デジタル化の 10年計画を立てており
この膨大な資料を
巨大な情報システムに
変えようとしています
目標として 掲げているのは
一日 450冊の本を デジタル化することです
当然 デジタル化したところで 十分ではありません
というのも これらの文書が
書かれているのは たいてい ラテン語やトスカナ語
ヴェネツィアの方言なので
文字に起こして
場合により 翻訳もして
索引を付ける必要があり
どう見ても 簡単なことではないのです
特に これまでの 光学式文字認識(OCR)方法は
印刷原稿には 使えますが
手書きの文書となると うまく行きません
これを解決するため 参考にしたのは
音声認識の 分野です
音声認識は 不可能と思われたことですが
ただ条件を 加えるだけで
実現することが できます
必要なのは 使われている言語の―
良いモデルです
つまり 構成が整った文書の―
良いモデルがあれば よいのです
これらは 行政文書ですから
多くは 構成が整っています
膨大な保存記録を 細かく分類し
同じような特徴ごとに 分類ができれば
うまくいく可能性が あります
その段階まで行けば 他のこともできます
この文書から 出来事を抽出できるのです
実際 おそらく この保存記録から
100万件の出来事が 抽出できます
さらに この巨大な 情報システムは
さまざまな方法で 検索できます
こんな質問も できます
「1323年に この宮殿に 住んでいたのは誰?」
「1434年に レアルト市場で
鯛はいくらで 売られていた?」
「ムラノのガラス職人の
給料はいくらだった?
例えば この10年で」
もっと大きな質問もできます
意味に応じて コード化されているからです
それを場所と 結びつけることもできます
多くの情報は 場所と関係しているからです
そこから この都市の
素晴らしい歴史を たどることができます
この都市が 千年以上もの時を超えて
常に環境との 均衡を保ちながら
持続的な発展を とげてきた―
その軌跡を たどるのです
都市の歴史を 再構築して
さまざまな形で ビジュアル化できます
当然 ヴェネツィアを理解するには その都市だけではなく
広くヨーロッパという 文脈で見る必要があります
ですから ヨーロッパで起こった―
全ての事柄を 記録するのです
海洋帝国時代の ヴェネツィアの動きを
再現することも できます
どのようにアドリア海の 支配を強めていき
どのように 当時
中世で最強の帝国になり
東から南にわたる
ほとんどの海上航路を押さえたかです
他のこともできます
こうした海上航路には
決まったパターンがあるからです
さらに一歩進めて
シミュレーション・システムを作り
地中海のシミュレーターを作れば
欠けている情報でさえ
再構築をすることができ
こんな質問も 受けられるようになります
まるで旅行代理店に 相談する感じで
「1323年6月に コルフ島から
コンスタンチノープルに行くには
どこで船に乗ればよいですか?」と
おそらく この質問へは
1日、2日、あるいは3日の 誤差で答えられます
「いくらかかりますか?」
「海賊に遭遇する可能性は?」 という質問もです
もちろん ご承知の通り
このようなプロジェクトで 核となる科学的課題は
このプロセスの各段階において 不確実性や矛盾を
制限・数量化し 説明をすることです
誤りは どこにでもあります
文書にもです 船長は違う名前で
船は実は出航しなかったかも しれません
翻訳や解釈上の誤りも あるでしょう
さらに アルゴリズム的処理を 加えれば
認識や抽出においても
誤りが出てくるでしょう
ですから ここにあるのは 非常に不確実なデータなのです
では どうすれば こうした矛盾を見つけ修正できるでしょう?
不確実性の形式を どう説明できるでしょう?
難しいことですが できることとしたら
プロセスの各段階を 記録して
歴史的情報だけでなく
いわゆる「メタヒストリー情報」も コード化するのです
歴史的知識が どう形成されたか
各段階で 記録するのです
これによって ヴェネツィアの
歴史を一つに 収斂させられるとは限りません
でも おそらく 完全に記録をもとにした―
ヴェネツィアの歴史を 再構築できます
もしかしたら 地図は一つでなく
複数あるかも しれません
システムは それを許容すべきなのです
不確実性の新たな形式を 扱わないといけないからです
その形式は この種の巨大データベースには 新しいものなのですから
では この新しい研究成果を
どうすれば 多くの人に 伝えられるでしょう?
あらためて申し上げると ヴェネツィアはそれに最適です
毎年 何百万もの 人々が訪れており
未来の博物館を つくるには
最もふさわしい場所なのです
想像してみてください 下に ある年の
再現地図を置き
壁には その再現に使用された―
例えば 絵画などの
資料が見られるのです
この没入型システムによって
その年のヴェネツィアに 入り込んで再構築し
まわりの人と その体験を共有できるのです
一方で ヴェネツィアの原稿などの
文書から始めて
それから何が言えるか 見せることができます
どのように解読がされ
どのような文脈で 文書が再生されたかなどです
こちらの画像は
ジュネーブで 現在行われている展示で
同様なシステムを使って 出したイメージです
結論として言えるのは
人文科学の研究は 今
進化を遂げようとしています
ちょうど 30年前に 生物科学に起こったような進化です
まさに規模の問題なのです
こうしたプロジェクトは
1つの研究チームで できる範囲を大きく超えるもので
人文科学にとっては 今までなかったことなのです
私たちは しばしば 小さなグループや
数名の研究者だけで 研究する傾向にありますが
あの古文書館を訪れてみれば
1つの研究チームで できることを超えていて
共同で行うべきものというのが わかるでしょう
こうしたパラダイム・シフトに向けて 私たちは
「デジタル古典研究者」という 新たな世代を育む必要があるのです
「デジタル古典研究者」という 新たな世代を育む必要があるのです
彼らこそ このシフトに ふさわしいのです
ありがとうございました
(拍手)