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(音楽)
本日は皆さんに、ニューヨーク市について 考えて頂きたいと思います。
人類の偉大なる成果の1つとして、だけでなく
壮大な進化の実験に出くわした、 生物たちの故郷として、です。
たとえば、この北マンハッタンの 森にかこまれた丘。
ここは、ニューヨーク市内に残された 数少ない、きれいなわき水の出るところです。
手ですくって、飲んでもらっても構いません。
このわずかな湧き水の出る地区には、 多くのサンショウウオが、暮らしています。
彼らは、60年ほど前には
市内でも、よく見かけられました。
しかし今は、この丘と、スタテンアイランドの一部に ひっそりと暮らしています。
彼らは、丘に追いやられ、
虐(しいた)げられているだけでなく、
その残された丘さえも、
ブロックスから、マンハッタンにかかる橋で
2つに分断されているのです。
しかし、彼らは
赤い矢印の通り、橋の両側の180番通りと、167番通りに
住み続けています。
私たちの研究所が、2箇所のサンショウウオから
DNAを採取し、調べたところ
DNAから、橋のどちら側のものか 判別できることが分かりました。
人間が建てた1つの建造物が、
彼らの進化の歴史に、変化を起こしたのです。
彼らを調べるのは、簡単です。
丘に行って、岩をひっくり返し、捕まえます。
ニューヨーク市には、他にもたくさんの動物がいますが
彼らほど、簡単にはいきません。 たとえば、このコヨーテ。
私たちは、自動カメラでコヨーテの撮影に成功しました。
場所は秘密です。まだ、許可が降りてないので・・・
しかし、コヨーテがニューヨーク市内に来たのは、 これが初めてのこと。
彼らは素早く、また賢い動物です。
これは、コヨーテの子どもが、カメラに気づき、 様子を探っているところ。
次第に私と同僚は、コヨーテがどのようにして
この地域に広がりつつあり、
どのようにして生きているのかに、興味がわき始めました。
もしかしたら、コヨーテがご近所に来ているかもしれません。 すでに彼らが、そこにいなかったのなら。
そう。速すぎて、人間の力では、 とらえられないものもあります。
手で彼らを撮影することは、不可能でしょう。
そこで、私たちはニューヨークの全域に 罠(わな)をしかけました。
これが、私たちの代表的な活動の1つとも、 言えるでしょう。
学生とも協力して、罠をしかけ、準備ができました。
まずは、こいつ。ニューヨークの森のほとんどで、 捕まえることができました。
シロアシネズミです。
これは、家の周りを走り回っているのとは、少し違います。
このネズミは固有種で、人間が生まれるずっと前から この地で暮らしてきました。
森や草地で、彼らを見かけることがあるかもしれません。
それくらい、市内の森林には、多く生息しているのです。
私たちは、彼らをモデルとして、どのようにして生物が、 都市の環境に適応するのかを、理解しようとしました。
400年前に、さかのぼってみましょう。
5つの群は、森林や様々な植物に
おおわれていました。
このネズミは、どこにでも生息していたでしょう。
ほとんど遺伝的違いのない、大量のネズミが 生息していたのです。
しかし、現在はどうでしょう?
彼らは、市内に点在している
小さな森林に、追いやられています。
私たちは、18の区域のネズミのDNAを採取し
それを第三者に、どこのネズミか、 分からないようにしてもらい
再度私たちが、ネズミの区域を特定する、 という実験を行いました。
この真ん中あたりの色は、色が混じっていることに
気がつきましたか?
市内の公園には、森を通って、 お互いに隣接しているものがあります。
そこでは、ネズミたちは自由に移動ができます。
そうすると、そこのネズミの遺伝子には あまり違いが生まれません。
しかし、市内全域を見渡すと 遺伝子には、かなりの変化が見られました。
それでは、その違いについて 見ていきましょう。
いったい、その違いは何を意味するのか? ネズミたちの生態に、何がおきたのか?
これに答えるためには、
ニューヨーク市内のネズミの、何千という遺伝子を採取し、
それと、田舎のネズミの遺伝子を比べる必要があります。
つまり、ニューヨークの外に住む、より大きく、
より広範囲に生息する、彼らの祖先の遺伝子です。
さて、遺伝子は、アミノ酸でかかれた
DNAの集まりにしか、すぎません。
そして、そのアミノ酸が、 タンパク質のまとまりを形成しています。
もし、遺伝子の1つのペアにでも変化があれば、 それは、アミノ酸に変化があったからでしょう。
その変化は、次にたんぱく質構造の変化を、もたらします。
たんぱく質構造の変化は、
細胞組織の変化に、つながります。
その変化により、ネズミが長生きしたり、 子どもをたくさん作れるようになれば、
生物学者が言うところの、「適応」が起こったことになります。
たった1つのペアの変化が、 急速に都市部のネズミたちに広がります。
これは、私たちが「マンハッタン・プロット」と呼ぶ、 おもしろいグラフです。
まるで、風景のように見えませんか?
1つの点が、1つの遺伝子を表しており
点がグラフの上にあるほど、
市内と田舎のネズミに、差があることを表します。
高層ビルのような点、特に赤線をこえているものは
違いが顕著です。
こうした遺伝子は、病気に対する免疫などを 表すことが多いのです。
ネズミの数も多い都市部では、
病気も広がりやすいからでしょう。
ネズミのエネルギー効率を表す、代謝の遺伝子、
それに金属耐性の遺伝子もあります。
ニューヨーク市内の土は、鉛(なまり)やクロムに
汚染されているからでしょう。
私たちの取組は、まだ始まったばかりです。
ニューヨーク市内の公園をめぐり、
1匹1匹のネズミを調べながら、それぞれの遺伝子の役割を 解明しているところなのです。
みなさんも、ちょっと新しい目で、公園を見渡してみてください。
私は、「次のダーウィン」という訳にはいきませんが、
あなたたちの中に、「次のダーウィン」がいるかもしれません。 目を開けて、自然とむきあえば。ありがとう。
(拍手)
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