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人を魅了して止まない、アゲハチョウの美しい羽模様。
この羽模様は、オスがメスを探す時にも、重要な役割を果たしている。
黒と黄色の線を交互に描いた紙を用意し、林の切れ目で待つと、ナミアゲハのオスが寄ってくる。
線の幅、紙の大きさが、実際の蝶と似ている方が
より強くオスを惹きつける。
ナミアゲハは、視覚でメスを探しているのだ。
しかし、蝶の視覚は、それほど発達しているわけではない。
探し当てた黒と黄色の縞模様が、仲間なのかメスなのか、オスは前脚で叩くことで探り当てている。
触れることで判る情報、それは、味覚の一種と考えられる。
アゲハチョウの仲間が有する味覚のセンサ。
それは、メスが産卵する植物を探り当てる時に、驚異的な能力を発揮する。
ナミアゲハは十種類の物質が混ざり合った植物にしか産卵しない。
種によって産卵する植物を分けることで、アゲハチョウの仲間は多様に進化し、共存を図っているのだ。
アゲハチョウの味覚センサは、遺伝子レベルでの分析が進んでいるが、
しかし、一つの疑問が残る。
味覚はあくまでも接触情報であるが、アゲハチョウはそもそも、
その植物がそこにあることを、何で見つけているのか。
鍵は嗅覚にあると思われるが、その解明は、まだ進んでいない。
アゲハチョウの嗅覚センサは、ガと同じく、触覚にあると考えられている。
一方で、アゲハチョウの尻には、生殖に関連する光センサが存在することが近年明らかにされた。
もしかしたら、植物を見つける嗅覚センサが、まだ別の場所に隠されているのかも知れない。
アゲハチョウとは異なるが、タテハチョウの仲間は、
前脚が嗅覚センサに特化し、驚異的なセンサ能力を実現している。
ある観察実験によれば、数キロ先の雌が放ったフェロモンにも反応したと伝えられている。
嗅覚に特化した前脚は身体に折りたたまれているため、タテハチョウの脚は四本しかないように見える。
タテハチョウ科の有する嗅覚センサが、アゲハチョウ科の味覚センサの延長なのか、
その謎の解明により、現在では不明な所の多いチョウの進化が、明らかにされる日も来ることだろう。
人類には、これほどまでに自然を計るセンサは無い。
しかし人類には、分析力という種を超えた力がある。
その分析力で自然を計り、多様で美しい地球の姿を守ること、それが人類に与えられた使命といえるだろう。