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翻訳: Yasushi Aoki 校正: Masaaki Ueno
最初に告白させてください
20年ほど前にした あることを
私は後悔しています
あまり自慢できないようなことを してしまいました
誰にも知られたくないと思うようなことです
それでも明かさなければならないと感じています
(ざわざわ)
1980年代の後半に
私は若気の至りから
ロースクールに行ったのです
(笑)
アメリカでは 法律は専門職学位です
まず大学を出て それからロースクールへ行きます
ロースクールで私は
あまり成績が芳しくありませんでした
控えめに言ってもあまり良くなく
上位90パーセント以内という成績で
卒業しました
(笑)
どうも
法律関係の仕事はしたことがありません
やらせてもらえなかったというべきかも
(笑)
しかしながら今日は 良くないことだとは思いつつ
妻の忠告にも反しながら
この法律のスキルを
再び引っ張り出すことにしました
今日はストーリーは語りません
主張を立証します
合理的で 証拠に基づいた
法廷におけるような論証で
ビジネスのやり方を再考してみたいと思います
陪審員の皆さん こちらをご覧ください
これは「ロウソクの問題」と呼ばれるものです
ご存じの方もいるかもしれません
1945年に
カール ドゥンカーという心理学者が
この実験を考案し
様々な行動科学の実験で用いました
ご説明しましょう 私が実験者だとします
私はあなた方を部屋に入れて ロウソクと
画鋲と マッチを渡します
そしてこう言います 「テーブルに蝋がたれないように
ロウソクを壁に
取り付けてください」 あなたならどうしますか?
多くの人は 画鋲でロウソクを 壁に留めようとします
でも うまくいきません
あそこで
手真似をしている人がいましたが
マッチの火でロウソクを溶かして
壁にくっつけるというアイデアを思いつく人もいます
いいアイデアですが うまくいきません
5分か10分すると
たいていの人は解決法を見つけます
このようにすればいいのです
鍵になるのは「機能的固着」を乗り越えるということです
最初あの箱を見て 単なる画鋲の入れ物だと思います
しかしそれは別な使い方をすることもでき
ロウソクの台になるのです これがロウソクの問題です
次にサム グラックスバーグという科学者が
このロウソクの問題を使って行った
実験をご紹介します
彼は現在プリンストン大学にいます
この実験でインセンティブの力がわかります
彼は参加者を集めて こう言いました
「この問題をどれくらい早く解けるか時計で計ります」
そして1つのグループには
この種の問題を解くのに
一般にどれくらい時間がかかるのか
平均時間を知りたいのだと言います
もう1つのグループには 報酬を提示します
「上位25パーセントの人には
5ドルお渡しします
1番になった人は
20ドルです」
これは何年も前の話なので 物価上昇を考慮に入れれば
数分の作業でもらえる金額としては 悪くありません
十分なモチベーションになります
このグループはどれくらい早く
問題を解けたのでしょう?
答えは 平均で―
3分半 余計に時間がかかりました
3分半長くかかったのです そんなのおかしいですよね?
私はアメリカ人です 自由市場を信じています
そんな風になるわけがありません
(笑)
人々により良く働いてもらおうと思ったら
報酬を出せばいい
ボーナスに コミッション あるいは何であれ―
インセンティブを与えるのです ビジネスの世界ではそうやっています
しかしここでは結果が違いました
思考が鋭くなり
クリエイティビティが加速されるようにと インセンティブを用意したのに
結果は反対になりました
思考は鈍く クリエイティビティは阻害されたのです
この実験が興味深いのは それが例外ではないということです
この結果は何度も何度も
40年に渡って再現されてきたのです
この成功報酬的な動機付け―If Then式に
「これをしたら これが貰える」というやり方は
状況によっては機能します
しかし多くの作業ではうまくいかず
時には害にすらなります
これは社会科学における
最も確固とした発見の1つです
そして最も無視されている発見でもあります
私はこの数年というもの
動機付けの科学に注目してきました
特に外的動機付けと内的動機付けの
ダイナミクスについてです
大きな違いがあります
これを見ると 科学が解明したことと
ビジネスで行われていることに食い違いがあるのがわかります
ビジネス運営のシステム
つまりビジネスの背後にある前提や手順においては
どう人を動機付け どう人を割り当てるかという問題は
もっぱら外的動機付け
アメとムチにたよっています
20世紀的な作業の多くでは これは実際うまくいきます
しかし21世紀的な作業には
機械的なご褒美と罰というアプローチは
機能せず うまくいかないか 害になるのです
どういうことか説明しましょう
グラックスバーグはこれと似た別な実験もしました
このように若干違った形で
問題を提示したのです
机に蝋がたれないようにロウソクを壁に付けてください
条件は同じ あなたたちは平均時間を計ります
あなたたちにはインセンティブを与えます
どうなったのでしょう?
今回は―
インセンティブを与えられたグループの方が断然勝ちました
なぜでしょう? 箱に画鋲が入っていなかったら
問題はバカみたいに簡単になるからです
(「サルでもわかる」ロウソクの問題) (笑)
If Then式の報酬は
このような作業にはとても効果があります
単純なルールと
明確な答えがある場合です
報酬というのは
視野を狭め 心を集中させるものです
報酬が機能する場合が多いのはそのためです
だからこのような
狭い視野で 目の前にあるゴールを
まっすぐ見ていればよい場合には
うまく機能するのです
しかし本当のロウソクの問題では
そのような見方をしているわけにはいきません
答えが目の前に転がってはいないからです
周りを見回す必要があります
報酬は視野を狭め
私たちの可能性を限定してしまうのです
これがどうしてそんなに重要なことなのでしょうか
西ヨーロッパ
アジアの多く
北アメリカ オーストラリアなどでは
ホワイトカラーの仕事には
このような種類の仕事は少なく
このような種類の仕事が増えています
ルーチン的 ルール適用型 左脳的な仕事
ある種の会計 ある種の財務分析
ある種のプログラミングは
簡単にアウトソースできます
簡単に自動化できます
ソフトウェアのほうが早くできます
世界中に低価格のサービス提供者がいます
だから重要になるのは もっと右脳的で
クリエイティブな 考える能力です
ご自分の仕事を考えてみてください
あなた方が直面している問題は
あるいは私たちが―
この場で議論しているような問題は
こちらの種類でしょうか? 明確なルールと
1つの答えがあるような? そうではないでしょう
ルールはあいまいで
答えは そもそも存在するとしての話ですが
驚くようなものであり けっして自明ではありません
ここにいる誰もが
その人のバージョンの
ロウソクの問題を扱っています
そしてロウソクの問題は どんな種類であれ
どんな分野であれ
If Then式の報酬は―
企業の多くはそうしていますが―
機能しないのです
これには頭がおかしくなりそうです
どういうことかというと
これは感情ではありません
私は法律家です 感情なんて信じません
これは哲学でもありません
私はアメリカ人です 哲学なんて信じません
(笑)
これは事実なのです
私が住んでいるワシントンDCでよく使われる言い方をすると
真実の事実です
(笑)
(拍手)
例を使って説明しましょう
証拠の品を提示します
私はストーリーを語っているのではありません 立証しているのです
陪審員の皆さん 証拠を提示します
ダン アリエリーは現代における最高の経済学者の1人です
彼は3人の仲間とともに MITの学生を対象に実験を行いました
学生たちにたくさんのゲームを与えます
クリエイティビティや 運動能力や
集中力が要求されるようなゲームです
そして成績に対する報酬を
3種類用意しました
小さな報酬 中くらいの報酬 大きな報酬です
非常にいい成績なら全額 いい成績なら半分の報酬がもらえます
どうなったのでしょう? 「タスクが機械的にできるものである限りは
報酬は期待通りに機能し
報酬が大きいほど パフォーマンスが良くなった
しかし認知能力が多少とも
要求されるタスクになると
より大きな報酬は より低い成績をもたらした」
それで彼らはこう考えました
「文化的なバイアスがあるのかもしれない
インドのマドゥライで試してみよう」
生活水準が低いので
北アメリカではたいしたことのない報酬が
マドゥライでは大きな意味を持ちます
実験の条件は同じです たくさんのゲームと 3レベルの報酬
どうなったのでしょう?
中くらいの報酬を提示された人たちは
小さな報酬の人たちと成績が変わりませんでした
しかし今回は 最大の報酬を提示された人たちの成績が
最低になったのです
「3回の実験を通して 9つのタスクのうちの8つで
より高いインセンティブがより低い成績という結果となった」
これはおなじみの 感覚的な
社会主義者の陰謀なのでしょうか?
いいえ 彼らはMITに カーネギーメロンに
シカゴ大学の経済学者です
そしてこの研究に資金を出したのはどこでしょう?
合衆国連邦準備銀行です
これはまさにアメリカの経験なのです
海の向こう ロンドン スクール オブ エコノミクス (LSE) に
行ってみましょう
11人のノーベル経済学賞受賞者を輩出しています
偉大な経済の頭脳がここで学んでいます
ジョージ ソロス、フリードリヒ ハイエク、
ミック ジャガー (笑)
先月 ほんの先月のこと
LSEの経済学者が 企業内における
成果主義を導入した工場 51の事例を調べました
彼らの結論は 「金銭的なインセンティブは…
全体的なパフォーマンスに対しマイナスの影響を持ちうる」ということでした
科学が見出したことと ビジネスで行われていることの間には
食い違いがあるのです
この潰れた経済の瓦礫の中に立って
私が心配するのは
あまりに多くの組織が
その決断や
人や才能に関するポリシーを
時代遅れで検証されていない前提に基づいて行っている
科学よりは神話に基づいて行っているということです
この経済の窮地から抜けだそうと思うなら
21世紀的な答えのないタスクで
高いパフォーマンスを出そうと思うのなら
間違ったことを これ以上続けるのはやめるべきです
人をより甘いアメで誘惑したり
より鋭いムチで脅すのはやめることです
まったく新しいアプローチが必要なのです
いいニュースは 科学者たちが
新しいアプローチを示してくれているということです
内的な動機付けに基づくアプローチです
重要だからやる
好きだからやる 面白いからやる
何か重要なことの一部を担っているからやる
ビジネスのための新しい運営システムは
3つの要素を軸にして回ります
自主性 成長 目的
自主性は 自分の人生の方向は自分で決めたいという欲求です
成長は 何か大切なことについて上達したいということです
目的は 私たち自身よりも大きな何かのために
やりたいという切望です
これらが私たちのビジネスの全く新しい
運営システムの要素なのです
今日は自主性についてだけお話ししましょう
20世紀にマネジメントという考えが生まれました
マネジメントというのは自然に生じたものではありません
マネジメントは木のようなものではなく
テレビのようなものです
誰かが発明したのです
永久に機能しつづけはしないということです
マネジメントは素晴らしいです
服従を望むなら 伝統的なマネジメントの考え方は
ふさわしいものです
しかし参加を望むなら 自主性のほうがうまく機能します
自主性について少し過激な考え方の
例を示しましょう
あまり多くはありませんが
非常に面白いことが起きています
人々に適切に 公正に
間違いなく 支払い
お金の問題はそれ以上考えさせないことにします
そして人々に大きな自主性を認めます
具体的な例でお話しします
Atlassianという会社をご存じの方はどれくらいいますか?
(誰も手を挙げない) …半分もいない感じですね
(笑)
Atlassianはオーストラリアのソフトウェア会社です
彼らはすごくクールなことをやっています
1年に何回か エンジニアたちに言うのです
「これから24時間何をやってもいい
普段の仕事の一部でさえなければ何でもいい
何でも好きなことをやれ」
エンジニアたちはこの時間を使って
コードを継ぎ接ぎしたり エレガントなハックをしたりします
そしてその日の終わりには
雑然とした全員参加の会合があって
チームメートや会社のみんなに
何を作ったのか見せるのです
オーストラリアですからみんなでビールを飲みます
彼らはこれを「FedExの日」と呼んでいます
なぜかって? それは何かを一晩で送り届けなければならないからです
素敵ですよね 商標権は侵害しているかもしれませんが
ピッタリしています
(笑)
この1日の集中的な自主活動で生まれた
多数のソフトウェアの修正は
この活動なしには生まれなかったでしょう
これがうまくいったので次のレベルへと進み
「20パーセントの時間」を始めました
Googleがやっていることで有名ですね
エンジニアは仕事時間の20パーセントを
何でも好きなことに使うことができます
時間、タスク、チーム、使う技術
すべてに自主性が認められます
すごく大きな裁量です
そしてGoogleでは よく知られている通り
新製品の半分近くが
この20パーセントの時間から生まれています
Gmail、Orkut、Google Newsなどがそうです
さらに過激な例をご紹介しましょう
「完全結果志向の職場環境」と呼ばれるものがあります
ROWE (Results Only Work Environment)
アメリカのコンサルタントたちにより考案され
実施している会社が北アメリカに10社ばかりあります
ROWEでは 人々にはスケジュールがありません
好きなときに出社できます
特定の時間に会社にいなきゃいけないということがありません
全然行かなくてもかまいません
ただ仕事を成し遂げれば良いのです
どのようにやろうと いつやろうと
どこでやろうと かまわないのです
そのような環境では ミーティングはオプショナルです
どんな結果になるのでしょう?
ほとんどの場合 生産性は上がり
雇用期間は長くなり
社員満足度は上がり 離職率は下がります
自主性 成長 目的は
物事をする新しいやり方の構成要素なのです
こういう話を聞いて
「結構だけど 夢物語だね」と言う人もいることでしょう
違います 証拠があるのです
1990年代半ば Microsoftは
Encartaという百科事典を作り始めました
適切なインセンティブを設定しました
何千というプロにお金を払って
記事を書いてもらいました
たっぷり報酬をもらっているマネージャが全体を監督し
予算と納期の中で出来上がるようにしました
何年か後に 別な百科事典が開始されました
別なモデルを採っていました
楽しみでやる 1セント、1ユーロ、1円たりとも支払われません
みんな好きだからやるのです
ほんの10年前に
経済学者のところへ行ってこう聞いたとします
「ねえ 百科事典を作る2つのモデルを考えたんだけど
対決したらどっちが勝つと思います?」
10年前 この地球上のまともな経済学者で
Wikipediaのモデルが勝つという人は
1人もいなかったでしょう
これは 2つのアプローチの 大きな対決なのです
モチベーションにおけるアリ vs フレージャー戦です
伝説のマニラ決戦です
内的な動機付け vs 外的な動機付け
自主性 成長 目的 vs アメとムチ
そしてどちらが勝つのでしょう?
内的な動機付け 自主性 成長 目的が
ノックアウト勝利します まとめましょう
科学が解明したことと ビジネスで行われていることの間には食い違いがあります
科学が解明したのは
1. 20世紀的な報酬―
ビジネスで当然のものだとみんなが思っている動機付けは
機能はするが驚くほど狭い範囲の状況にしか合いません
2. If Then式の報酬は 時にクリエイティビティを損なってしまいます
3. 高いパフォーマンスの秘訣は
報酬と罰ではなく
見えない内的な意欲にあります
自分自身のためにやるという意欲
それが重要なことだからやるという意欲
大事なのは―
私たちがこのことを知っているということです 科学はそれを確認しただけです
科学知識とビジネスの慣行の間の
このミスマッチを正せば
21世紀的な動機付けの考え方を
採用すれば
怠惰で危険でイデオロギー的な
アメとムチを脱却すれば
私たちは会社を強くし
多くのロウソクの問題を解き
そしておそらくは
世界を変えることができるのです
これにて立証を終わります
(拍手)