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ため池やお城の堀などに、大きく丸い葉を広げるオニバス。
エキゾチックな形態から、外来の植物と思われがちだが、
氷河時代以前から日本に定着している自生種である。
春に芽吹いた種から、やじりのような形に畳まれた葉を伸ばす。
その葉は、水面にまで伸びると扇子をひろげるように丸く広がり、
トゲと葉脈の部分に空気を溜めて浮き上がるように水面を覆う。
しかし、水中の根と水面の葉を結ぶ、葉柄と呼ばれる茎のような部分は、夏までには成長を止めてしまう。
このため、真夏に水位が上昇すると、葉が水没して枯れてしまう。
水深の深い湖や水位の変化しやすい環境では繁茂しにくいため、オニバスの生息域は小さな池や沼地などに限られる。
だがオニバスは、この限られた生息域の条件に適合した、不思議な生態を示すのだ。
大きな葉で水面を覆うことで、ウキクサやホテイアオイのような浮遊性植物の繁茂を妨げ、
池を湿地化させない効果が現れる。
また、葉で水面を覆うことは、表面で水を蒸散させ、
池の水を低い水位で安定させることにも繋がる
オニバスは秋の訪れと共に花を咲かせるが、
多くの花は水面下でつぼみのような状態のまま留まり、
つぼみの中で自家受粉を行う。
幾つかのつぼみは、葉を破って水上で開花するが、
なぜこのように咲き分けるのかは全くの謎であり、定説は無い。
こうして結実した実の塊は、種子を覆う皮膜の力で水面を漂い、
適度に移動したところで自然にばらばらになる。
ほぐれた種は水に沈んで冬を越し、次の発芽に備えるのだが、
全ての実が翌春に発芽するわけではない。
オニバスの種は、水底に落ちるまではその皮膜で、
水底に落ちてからは泥に埋もれることで酸素の供給を絶ち、次に酸素に触れるまで、休眠状態に入る。
時にその休眠は、数十年にも及ぶことがある。
しかし水が干上がったり酸素に触れても、そこがやがて水に覆われるという保証は無い。
夏場、水に覆われなかった場所で発芽した種は枯死するだけなのであろうか。
だが、長く休耕田で放置されていた田んぼに水を張ると、オニバスが一斉に繁茂したという例も知られている。
もしかしたらオニバスの種は、酸素に触れて休眠から目覚めるだけでなく、何らかのセンサの力で、その場所が夏に向けて水が満たされるか否かを感じ取っているのかもしれない。 31 00:04:41,314 --> 00:04:45,366 なぜ水中花と水上花を分かつのか、
なぜ発芽まで数十年も休眠する種子があるのか。
オニバスの生態にはまだまだ謎も多い。
しかしそれは、限られた生息環境を見定めるために蓄積された、
生物の知恵の一つであることは間違いないだろう。
人間には、これほどまでに自然を計るセンサは無い。
しかし人類には、分析力という種を超えた力がある。
その分析力で自然を計り、多様で美しい地球の姿を守ること、それが人類に与えられた使命といえるだろう。