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長編映画 ”草間彌生:ポルカダッツプリンセス” からの抜粋
彼女にとって作品を制作するということは 家族への反抗であったかもしれない。
だが同時に絵の才能には恵まれていて、 初期のドローイングの中には素晴らしいものがある。
地方出身で一流の芸術家として成功するためには、
いずれかはそこから脱出しなくては いけないという思いがあったのだろう。
そして草間彌生はスター街道への列車に乗ることになる。
彼女は自分が何をしたいのかを常にわかっていた。
絵で一杯に詰まったスーツケースを片手に、 彼女はいよいよ自分を売りこむために海外へ出る。
彼女が来た当時のニューヨークは、男性主体の社会であり、 特にアート界は男性にほとんど占められていた。
当時の女性アーティストにはかなりの苦労が強いられた。
彼女の作品は我々の集中力を取り除き、 空間の全ての境界線を壊していく。
私が実行した展覧会の中でも、特に ”ピープショー”(”覗き見”展)はその中でも一番いい例だ。
黒く塗られた八角形の部屋に、 覗き込める穴が複数あり、
天井にはライトが並んでいて、
機械仕掛けによって、早いスピードで 色が変わっていった。
草間彌生が現れるまで、ルネサンス時代から 遠近法や無限という概念で制作してきたアーティストはたくさんいる。
だが、それらは全て偽りだった。何故なら、 鑑賞者が常に何を観るかを選べたからだ。
例えば絵画でも枠に納められており、画家は空間との対話を していたかもしれないが、草間作品のように鑑賞者を包む込む事はなかった。
東京に戻り、再びゼロから始めるというのは 並大抵のものではなかったはずだ。
何故なら、誰も彼女のことを知らなかったからだ。
苦労やストレス、また過去の記憶などの為に 彼女はよく引きこもっていた。
しかし彼女は常にそのような状態をうまく管理し、 精神的な危機を乗り越えてきた。
現在、草間彌生は精神病院に住んでいるが、
その病院のすぐ近所で、また東京中心部の 住宅地の一角にあるスタジオで普段は働く。
そこでは、多数の助手が働き、
制作をする場所があり、資料アーカイブや、 図書館が並んでいる。
毎朝そこへくると、彼女はプロになる。 朝9時から夜6時まで、スタジオで働く。
彼女は実はマネージメントマッドネス(徹底的な管理が常に必要)だと思う。
ここで興味深いのは、彼女のその部分があまりにも正気だということだ。
彼女はトラウマ、そして過去の経験を自分自身の為に”使う”。
一般の人を狂わしてしまうような経験や記憶さえも、 彼女なら制作活動に生かすことができる。
そういう意味で彼女は並外れた人物だ。