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はなわ新曲も話題、芸人が歌う「家族の歌」はなぜ聴衆の胸を打つのか?
はなわの13年ぶりとなるCDシングル「お義父さん」、ミュージックビデオは地元・佐賀で撮影された。
ネットやSNSで「泣ける」と話題を呼んだ、はなわの13年ぶりとなるCDシングル「お義父さん」が5月24日に発売され週間ランキング初登場23位を記録、感動の輪がじわりと拡大している。
同曲は昨年3月、彼が奥さんの誕生日にサプライズで贈ったナンバー。
「父親の顔を知らずに育った妻が、立派な母となったことを伝えたい」という想いから作られた曲で、お義父さんに宛てた手紙のようなノンフィクションの歌だ。
感情移入できるか否かがヒットのカギを握る音楽の世界で、“内輪の歌”はある意味では鬼門。
アーティスト次第では白けてしまう危険性もはらんでいるが、こと芸人が歌う「家族の実話」はなぜ聴衆の心をつかむのだろうか?。
「真っ直ぐな歌」は生き様を物語っている。
はなわの13年ぶりのシングル「お義父さん」(タイプA) 妻に向けて作った歌ということで、はなわ自身は「お義父さん」を公にするつもりはなかったというが、曲に感銘を受けたマネージャーのひと声をきっかけに、単独ライブのアンコールで披露すると予想以上の反響が寄せられた。
そして、妻の誕生日である今年3月4日、YouTube上にその時のライブ映像が公開されると、20日間で100万回再生を突破。
ネットには「笑いあり、涙ありの感動作」、「心にジーンときた」、「曲を聴いて思わず泣いてしまった」とのコメントがあふれ、お笑い芸人の水道橋博士や陣内智則、東貴博など、同業者による拡散力も手助けとなり、レコード会社の目に止まった。
CD化に至った経緯について、「最初、YouTubeで話題の『お義父さん』のライブ映像を、上司が『すごくいい曲がある』と観せてくれました。
一緒に観始めて目が潤んできて、ふと横を見たら上司の目が真っ赤なんですね。
実話だからこその言葉の持つ深い説得力と、歌から溢れ出る生命力。
『お義父さん』というテーマの視点も凄いですし、より多くの方に届けたいという思いで、すぐに事務所の担当の方に連絡を取って素直な気持ちを伝え、CD化を快諾していただきました」と語るのは、ビクターエンタテインメントの制作担当者。
「『ベースを持った佇まい』と『真っ直ぐな歌』は、はなわさんの生き様を物語っていると思う」と、彼のアーティストとしての魅力について説明する。
5月28日、東京・ヴィーナスフォート教会広場で行われた、はなわの「お義父さん」発売記念イベントには、約500名もの観衆が集まった 芸人が家族などをテーマに「実話」を歌い話題を集めた曲といえば、ダウンタウンの松本人志が貧しかった少年時代のエピソードをもとに作詞を担当し、浜田雅功と槇原敬之名義で発売した「チキンライス」や、10年前に“おめでた婚”した妻に改めて想いを告げるマキタスポーツ作詞・作曲の「十年目のプロポーズ」、山口智充が父との思い出をもとに作詞・作曲し、雨上がり決死隊とのユニット・くずとしてリリースした「夏の日々と親父の笑顔」など、過去現在とさまざまな楽曲が存在する。
ストレートな思いを綴った彼らのそれはなぜ、胸にそっと沁み込んでくるのだろうか?。
時代の変化と共にエンタメを「人物像」込みで楽しむ風潮に。
音楽ライターの田井裕規氏は、「人を笑わせる、ひいては人の感情をコントロールするというのは容易なことではありません。
その意味で芸人とは、話芸や所作によって、観る者の心を瞬時にして捉えることに長けた“達人”。
そういう人たちが手がける作品なのだから、多くの人が共感を覚えるのは自然なことかもしれません。
ただ、家族を題材にした歌となると、リアルが色濃く出るため少なからずリスクは伴う。
事実、かつては、そんな風潮が毛嫌いされた時期もあります。
いわく、『芸人が私生活を切り売りするなんて』、『芸人は笑わせてなんぼ』という考え方です。
しかし、メディアの発達、芸能エンタテインメントの細分化とともに、今ではそんな考えだけに固執する人は激減しました。
この人にはこんなバックボーンがあって、こういうプロセスを経て現在の芸を確立したんだ、という『人物像』込みでエンタテインメントを楽しむ時代の到来とでも言いましょうか。
ピースの又吉直樹さんが芥川賞を取ったり、キングコングの西野亮廣さんが絵本作家として成功したり、MCや論客としてテレビ番組を賑わす人が相次いだり、多彩な活躍をする人が増え始めたのもその表れでしょうし、それを自然に受け入れている世の中も、芸人に対する狭い視野から脱却しようとしています。
だから、かなりセンシティブな題材に取り組んだ今回のはなわさんの楽曲に対しても、人々は「素直」に受けいれることができたのではないでしょうか。
『コヤブソニック』や『YATSUI FESTIVAL』が示すように、もともと音楽とお笑いは親和性が高い関係にあります。
芸人の人物像を把握し、活動の振り幅を認め、素直に反応するリスナーたちが存在する限り、芸人の人間を掘り下げた歌が支持される土壌は今後も広がっていくのではないでしょうか」とその理由について分析する。
また、普段はテレビ番組や劇場などの舞台に立ちおどけていても、プライベートに戻ると、ひたむきに芸を磨いていたり、家族思いな一面があったり。
“芸人の顔”とのギャップも、感動を呼ぶ理由の1つと言えるかもしれない。
楽曲のほかに、書籍でも島田洋七の『佐賀のがばいばあちゃん』やビートたけしの『たけしくん、ハイ!』、麒麟・田村裕の『ホームレス中学生』など、芸人が家族の実話を描いた話題作は多数存在する。
芸人のヒストリーには、まだまだたくさんの可能性が隠されていそうだ。