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我がトラッキングポイント社が スマートライフルを開発した
この銃を使えば 初心者でも 正確に射撃できる
[ロングショット]
2013年 春 トラッキングポイントはー
自動照準ライフル(PGF)を発表
〝未来の銃〟とも言える 長距離レーザーライフルだ
射撃の経験が 豊富でない人もー
PGFを使えば わずか数分で 正確な射撃をマスターできる
初心者でも 最新技術により 1キロ先の標的を射抜ける
獲物を苦しめずに殺せると 企業は主張するがー
危険だと反論している 専門家もいる
狙撃には 何年もの 経験と技術が必要だったがー
この銃があれば 1キロ先の 人間も簡単に殺せてしまう
扱う商品は命を奪える武器であり その重大さは承知してる
簡単に殺せることが 売りではない
機械と人間 どちらの責任が問われるのか?
武力紛争では 機械に頼ることも増えたがー
スマートライフルの登場で 議論が過熱するかもしれない
本当に それほど簡単に 獲物を殺せるのか?
開発元と会うため テキサス州にやって来た
スマートライフルなら 本当に初心者でも狙撃できるのかー
身をもって検証する
【テキサス州 ソノラ】
まずはAR-15を使って 射撃の基本を学ぶ
引き金を引いたら 指を放さないのがコツだ
安全確認と操作方法を教わった後 実射をする
いいぞ
命中だ
180メートル先の的にも 命中した
初心者にしては まずまずだった
コツが分かった
次に車上からの射撃に 挑戦した
初めてにしては上出来だ
さらに上空からも
【いい気分だ 撃つ準備はできたよ】
【1発で仕留めたな】
【練習10分で これなら合格だ】
すっかり楽しんでしまったがー
そろそろPGFを 見せてもらおう
これはXS1だ 弾道を自動計算してくれる
この赤いタグボタンを押すとー
レーザーで距離が測られる
そして毎秒54回 データが更新され 弾道を計算する
引き金を絞っても弾は出ない
引き金を絞ったままの状態で 狙いを定めー
標的に設定したタグに 照準器の十字を重ねると発砲する
従来の銃では 自分で標的を狙って撃つがーー
PGFは 代わりにやってくれる
その秘密は 発砲を電子制御できる スコープにある
標的をタグ付けすると 毎秒54回 レーザー測定しー
照準を設定する
そして照準が合った瞬間 発砲される
絞って 狙いをタグに合わせる
すごい
遠いから 着弾まで長いだろ
慣れは必要だが...
わずか数分の練習で 1キロ先の的に当たった
当たった 命中したよ
自分では見えなかったけど 当たったらしい
技術の進歩のおかげで 狙撃チームを組む必要がなくなる
狙撃の戦術が変わってくる
CEOのジェイソンは元軍人で イラク戦争も経験した
子供の頃から 特殊部隊に入りたいと思ってた
夢は叶ったが 30代前半で 負傷により除隊を余儀なくされた
イラクに赴任して5ヶ月目に 撃たれたんだ
その時 仲間の死体を運び出してた
これが その時の傷痕だ
腕から取り出した弾の破片を 今でも首から下げている
記念にね
1年に8回 手術したけど まだ破片が残ってる
手術のたびに体の機能を奪われ 親指も自由に動かせなくなった
かなりショックだったよ
ジェイソンの弟 オーレンも 同社で働いている
元ミュージシャンだ
【シルバー・メダリオン】
兄の頼みで会社を手伝うことに
新しいことに挑戦しないかと 兄に持ちかけられた
何よりも やりがいのある仕事だとね
昔は子供の憧れと言えば ロックスターだったが
今は最新技術の世界だ
マーク・ザッカーバーグや イーロン・マスクが憧れの的だ
今のオレにとっても この世界が とても刺激的に思えるんだ
【トラッキングポイント社 テキサス州 オースティン】
2年間の開発過程の中で 様々なバーチャルテストをするが
実際に 遠くから動物を撃つ 実射テストは最重要だ
最長記録は ケープオグロヌー
普段 物見台として利用する 崖の上から仕留めた
2番目が1005メートル 獲物はスプリングボックだった
それから これもすごいだろ 獲物は虫だ
獲物の横には 撃ち手ではなく 使った銃を並べて写真を撮る
銃の性能を示すためだ
スマートライフルはー
最新のテクノロジーと これまでの営みとの融合だ
初心者でも 数分で正確な射撃が可能になる
銃器部分は従来と変わらない
技術によって より使いやすくしただけだ
初心者向けの商品になってる
うちは応用技術の会社だ
ここで開発する技術は 様々な分野に活用できる
スポーツやハンティング 電話や無人機に至るまでね
いろんな可能性があるから ワクワクするよ
ここで働けて とてもうれしい
従業員は 約100名にまで増えた
広い施設も手狭になった
施設にはシミュレーター 光学研究室 産業デザイン棟
機械加工室 製造室 エンジニア室
そして武器庫
これはXS3
下段には XS1とXS2だ
これは 最初期の試作品の1つだ
スコープにボードやら何やらを 縛りつけただけのものだね
研究開発の核は スコープにある
新たな銃の世界は まるでシリコンバレーのようだ
誰でも 正確に 射撃できるようにしたんだ
精密誘導技術によってー
長距離射撃の正確性を 上げることを重視した
次に どんな インターフェイスにするか考えた
現代人がなじみやすい シンプルなものにしたかったんだ
車などに使われてる ヘッドアップディスプレーをー
銃に採用した
オレはCoDやHALOなどの ゲームで育った世代だ
多くの人間が シューティングゲームを通してー
銃の知識を たくさん得ているんだ
ゲームをしたり プレー動画を見たりしている子供はー
ヘッドアップディスプレーに 慣れやすい
スマートライフルは 単に精度を上げるだけでなくー
銃市場の拡大も視野に入れて 取り組み始めたものだ
スコープには Wi-Fi機能が搭載されておりー
射撃動画をネットに アップロードすることができる
【ケイオティック・ムーン・スタジオ テキサス州 オースティン】
この会社ではエンジニアが アプリやゲームを製作している
ボクはiOS向けの開発担当
今は スコープの設定に使用する アプリを製作してる
スコープからファイルを カメラにダウンロードしたりー
スコープを アップデートしたりできる
私はエリザベス スコープの練習ゲームを作ってる
使い方が学べるの
実際の銃と同じように動かして 動物を探しー
タグ付けして撃つ
やった! 即死だわ
苦しませたくないの
即死じゃないと 苦しんで死ぬってことだから
シューティングゲームと 実際の狩りは別物だ
PGFを使う前に 従来の銃で 狩りをしてみることにした
トラッキングポイント社は 野生のブタで試射を行う
ブタは畑を荒らし 生態系を乱すからだ
被害は大きく 年中 狩りが許可されている
【テキサス州 ラーノ】
その夜 AR-15を手に 狩りに出かけた
シート付きの荷台に乗って ブタを探しながら移動中だ
銃で動物を撃つなんて 生まれて初めての経験だよ
どうなるかな
いたぞ 撃て
当たったか分からないな すぐに姿を消しちまった
ちくしょう 当たらない
そのまま続けて
命中したぞ
- いや 生きてる - 失神したのかな
- 交代するかい? - 全然ダメだね
初心者には難しすぎるよ
明日はPGFを使うから大丈夫だ
翌朝 試射のため 山頂に向かう途中ー
昨夜の狩り場に ハゲタカの群れが
小さなブタの死体だ
ハゲタカに食われてる
当たってたんだな
標的のはるか上方からでは 様々な条件が射撃を左右する
風を計測中だ
5~8程度だから 近距離なら大して影響はないがー
長距離の場合は 大きな影響が出る
いい感じだったね
精密誘導システムがあっても 長距離射撃にはスキルが必要だ
風の計算 獲物を狙う位置
銃の知識や扱い方
それらを考えた上で 臨まなくてはならない
必ず獲物が仕留められるほど 簡単なものじゃない
どんなシステムを使っても 狩りや射撃には時間がかかる
- いくぞ - いけ
直前の風で少し左に曲がったな
10発ほど撃って 結果を確認した
左に当たってる
後ろを見てくれ あの山の上から撃ってたんだ
913メートルだ
中央なら致命傷になる
いくつかは低すぎたがー
ここら辺のは合格だ
必ず命中するわけでもない
狙った獲物は必ず仕留められると 思う人も多いがー
風があると難しい
500メートルなら 命中させられる
でも1000になると難しい
長時間の訓練に耐え 技能を身につける固い決意があればー
誰でも有能な スナイパーになれる
今は機械で スキル不足を補えてしまうがー
ホールインワンが打てるクラブで プレーして 何が楽しい?
射撃精度の追求と言うと 誤解を招きそうだがー
アメリカ国民の約半数に 射撃の経験がある
その大きな市場のために していることだ
他のスポーツで 道具の開発が 行われるのと何も変わらない
スポーツの側面が なくなってしまってる
スキルの要素を排除したらー
射撃には一体 何が残されるのだろう?
初心者が始めやすくなる
10年もかけて 弾道の計算を 修得しなくていい
中には 一生 できない人もいる
必要なスキルをテクノロジーで補い ハードルを下げー
競技人口を増やすのは 悪いことじゃない
ついにPGFで 狩りを行う時が来た
約1時間後 ブタが現れた
来たぞ
見てろよ
逃げたね 外したか
直前に動いたからズレた
- でも倒れたよ - そう?
- 1匹は すぐ逃げた - 左手に
この匂い これがアメリカだ
一方 その頃 ブライアンは PGFでブタを仕留めていた
6度目の射撃で 初めての獲物だった
- すごいな - やるじゃないか
ブライアンが仕留めたのか
オレたちも確認しよう
当たったと思ったけど
傷が浅かったらしい
血だ
この辺りに血が飛び散ってる
ちゃんと 当たってたってことだ
一体 どこに行きやがった
ほら ここにも血が
どうやら 即死ではなかったようだ
血の跡をたどろう
無駄足だった
PGFを使って獲物に逃げられたのは 初めてだそうだ
強烈な日々だった
AR-15を撃った時 オレの手は震えていた
ゆっくり呼吸して
ハアハア言わない
そのままゆっくり息を吐いて 引き金を絞る
引き金を引くタイミングは 難しい
射撃とは不思議なもので 命中すると感触が伝わる
- あれか? - そうだ
- やった - 命中したぞ
PGFだと 迷わずに済む
多少ブレたとしても 自動で狙いが定まるからね
問題は 初心者が 熟練の殺し屋になる点だ
社会で どこまで 受け入れられるかは疑問だ
この技術を 市民が手にすべきか?
あるいは警察や軍隊が 手にすべきなのか?
おそらく軍は導入するだろう
PGFの技術には 軍や警察 政府も興味を示している
他の武器やゲームへの応用も 予定されている
3キロ先を狙える銃も 出来るかも
わずか2~3年でー
高度な技術の実用化に成功した
軍の武器調達システムは 時間がかかりすぎる
軍が武器を認可したあと 大量製造に移行する頃には
うちは もっと いい製品を出してるよ
テクノロジーのおかげでー
環境を操作することができ 効率よく人類の目的が果たされる
今後 数十年 この傾向は加速するだろう
〝プロメテウスの火〟に 我々は身を捧げてしまっている
これが現在の世界なのだ