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洗濯機
洗濯機
色褪せたプラスチックを 身に纏い
一人きり ベランダで座って
陽射しや強風や大雨に耐えている
テレビ 中心になって子供たちの注目を集めて
黒くてシンプルな形で
リビングにピッタリだ
ドライヤーにしても
流線型のデザインで
握ってみると
まるでダンスのパートナーみたいにしっくりくる
栄えあるレコーダープレヤーは
今や骨董品級だ
上品な中音域は
誰よりも 人気あるよね
でも無口な洗濯機は
主題歌なんて貰ったこともない
ひとすら風雪に耐え埃を被ってるだけ
誰も近づこうとはしない
これまで 文句ひとつ言わず
どれだけ詰め込んでもあいつは洗濯してくれた
脱水はいつも ありったけの力で
身体がガタガタ震えるほど
何年も 回って回って
時は瞬く間に過ぎていった
年を取っても 変わらず全力で
孤独ながらも勇敢な洗濯機
コーヒーマシンは ヨーロッパからやってきた
洒落た貴族の雰囲気をまとって
子どもたちは大きくなって
あいつを囲んでカフェラテを飲むのが 大好き
洗濯機は これまでずっと
寛大で駆け引きもしない
あいつが唯一気にかかるのは
いつ晴れるかってことだけ
退職した あのディスクドライブにしても
僕を連れて 冒険や恋を経験してきた
冷蔵庫の腹の中の
ビールやアイスクリームは
数えきれないほどの
眠れない夜と 失恋した心を癒してくれた
無口な洗濯機は
ずっと人に好かれる術をしらないできた
幾つもの四季を経て洗い続ける
来世紀になっても
すべての電化製品は みんな一つ屋根の下
風雨にさらされる心配は無い
あいつだけが 一人きり
ベランダの片隅で働いている
何年も 回って回って
時は瞬く間に過ぎてしいった
年を取っても 変わらず全力で
孤独ながらも勇敢な洗濯機
ふとある日
洗濯物を洗濯機に入れるのを 手伝おうと思って
そうだ あいつはとっくに壊れた
ただ新しいのに買い換えられなかっただけなんだ
じゃあ一体誰が ずっと洗ってくれてたの
僕の厄介な泥汚れを
ずっと昔から 僕の服は
全部母さんが洗ってくれてた
これまで 文句ひとつ言わず
どれだけ詰め込んでも母さんは洗濯してくれた
母さんはいつも ありったけの力で
身体が震えるほど
何年も 回って回って
時は瞬く間に過ぎていった
そうだ 母さんはずっと
僕の寡黙な洗濯機になってくれてた
そうだ 母さんの顔に刻まれた皺は
返すことのできない借用書だ
そうだ 母さんの後ろ姿は
言葉にはできない懐かしい風景だ