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好むと好まざるとに関わらず 私たちは毎日 数を使います
音速のような数は小さくて 扱いやすいですが
光速のような数は大き過ぎて 扱うのが厄介です
そういう大きな数は 科学的表記法を用いると ずっと扱いやすく表現できます
たとえば「秒速299,792,458メートル」は 「秒速3.0×10の8乗メートル」と書けます
正しく科学的表記法を使うには 最初の項は 1以上10未満でなければなりません
2番目の項は10の累乗 つまり桁数を表し 最初の項に掛け合わせます
10の累乗は 厳密な数値を必要としないときや 気にしなくて良いときなどに便利です
例えば 原子の直径は およそ10のマイナス12乗メートルです
木の高さは およそ10の1乗メートルです
地球の直径は およそ10の7乗メートルです
10の累乗は 瓶の中にある マーブルチョコの数を予想するときなどに
見積もりの道具として 役立ちますが
数学や科学で不可欠なスキルでもあり いわゆるフェルミ推定するとき特に重要です
フェルミ推定は ほんのわずかのデータから 桁レベルの粗い推定をすることで有名な
物理学者エンリコ・フェルミにちなんで 名付けられました
フェルミは原子爆弾を開発する マンハッタン計画に参加しましたが
1945年にトリニティ実験場で核実験が行われた際には フェルミは爆発中に数枚の紙を落とし
落下までに吹き飛ばされた距離によって 爆発の規模を
TNT火薬10キロトン相当と推定しました 実際には20キロトンで 桁は合っています
フェルミ推定問題の典型例として イリノイ州シカゴ市の ピアノ調律師の数を求めるというものがあります
最初は 未知の要素が多過ぎて 解けそうに思えませんが
正確な答えは必要ないため 10の累乗による推定にぴったりです
うまく推定できるでしょう
シカゴ市の人口を求める ところから始めます
シカゴが大都市というのは分かっていても 正確な人口は覚えていないかもしれません
100万人? 500万人?
多くの人はこの時点で 不確かなことに苛立ちますが
10の累乗を用いることで 容易にこれを克服できます
シカゴの人口の規模は 10の6乗と推測されます
これはシカゴの正確な 人口ではありませんが
実際の300万人弱という人口を 正しく推定しています
では シカゴにいる人は10の6乗だとすると ピアノは何台あるでしょう?
引き続き桁数だけ 気にすることにすると
10人に1人か 100人に1人程度と 容易に予想がつきます
推定された人口は子供も大人も 含むことを考えて後者を採用し
シカゴにはおよそ10の4乗 つまり10,000台のピアノがあると推定されます
それだけピアノがあるとき ピアノ調律師は何人いるでしょう?
ピアノはどのくらいの頻度で調律するのか
毎日何台のピアノが調律されるのか 調律師は何日働くのかなどと考えるかもしれませんが
素早い推定には あまり重要ではありません
代わりに桁数で考え 1人の調律師が 1年に調律するピアノは
ざっくり 10の2乗台 つまり 数百台としましょう
シカゴにあるピアノの数は 10の4乗という先ほどの推定と
各調律師は1年に10の2乗台のピアノを 調律するという推定から
シカゴには およそ10の2乗人の ピアノ調律師がいる計算になります
皆さんはこうお考えでしょう
「そんな推定法で 妥当な答えが得られるのか?」と
答えは簡単です — フェルミ推定では 過大評価と過小評価がお互いにバランスをとり
実際の答えとせいぜい1桁しか違わない 推定結果が得られると考えます
このケースでは 電話帳に載っているシカゴの ピアノ調律士の数を見て確かめられます
何人だったでしょうか? 81人です
ざっくりと桁数のみ見積もったにしては 実に驚くべき精度ですが
これこそ10のパワーなのです