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時代の変化や職人の高齢化により日本文化を支えてきた伝統技術は
失われつつあります。江戸時代に歌舞伎役者のブロマイドとして
人気を博した江戸木版画も需要の低下と後継者不足により
その存続が危惧されています。伝統技術を次の世代へ――
ある木版画彫り師とその弟子を取材しました。
神輿、群衆、武士…と、細かな描写と鮮やかな色遣いで
祭りのにぎわいが見事に表現された木版画です。
『三枚続き』と呼ばれるこの大作を彫ったのは
木版画彫り師の関岡裕介さん(52)、職人歴34年です。
関岡さんは高校を卒業後、摺り師であった父親に勧められ
彫り師の道へ進みました。木版画の制作は絵師が描いた下絵を基に、
彫り師が版木を彫り、最後に摺り師が紙に摺るという3段階に
分業されています。地道な作業ですが、彫りは木版画の最も重要な
工程です。関岡さんは「見た目は色を付ける摺り師の方が
重要な感じがするけれど、彫りがしっかりしていないと
いくら良い摺りをやっても無理」と話します。同じ下絵でも、
彫り師によって全く違った味の版画に仕上がるため、
彫り師の仕事はクリエイティブで創造的だとも関岡さんは話します。
しかし昔から結果が目に見えやすい摺り師の方が人気で、
現在都内にいる53人の摺り師と彫り師のうち、彫り師の数は
10人を下回っています。これに関して関岡さんは「人が少なくなると
仕事量自体も少なくなり全体的に衰退していくから、
なるべく多くの人数を残したい」と話します。
後世に技術を残すため、関岡さんは積極的に弟子を受け入れています。
2ヵ月前に関岡さんに弟子入りした喜田奈実さん(26)は、
大学卒業後、手に職をつけたいと木版画専門の会社に
彫り師の見習いとして入社しました。正式に職人に弟子入りしたのは
今回が初めてです。喜田さんは「すごく昔ながらの世界というか、
外部の方からはよく分からない世界だと思うけど、
そういうところに入った以上は柔軟に頭を柔らかくして
頑張らなきゃ駄目だなと思う」と話します。彫り師や摺り師だけでなく
ノミや版木を加工する職人も減っていますが、喜田さんは
しっかりと先を見据え「材料にしても、これからどんどん
無くなっていくものもあるし、もしかしたら新しく生まれるものも
あるかもしれない。そういう中で続いていくのが伝統だと思うので、
その時代その時代に合うものを作っていきたい」と話します。
都内各区では補助金制度を設けたり弟子を公募したりと
さまざまな取り組みが行われており、弟子入りを希望する若者が
少しずつ増えています。喜田さんは「自分1人で気負うというよりも、
せっかく同じ世代でやる人が増えているんだったら
みんなで頑張っていきたいという気持ちでいます」と話します。
需要の低下や人手不足などで失われつつある
江戸木版画の文化…。しかし、その技術は少しずつ確実に
次の世代へと受け継がれています。